春川編 (2004.2.27)

韓国の国鉄で最もグレードが低い「統一号」が高速鉄道の開業を前に、3月中旬で廃止されることになった。ディーゼルカーで運行しているものは存続するのだが、客車列車で運行されているのが廃止の対象となる。廃止まであと1カ月。できるだけ多く乗っておきたいところ。とはいっても列車に乗るだけの旅行はしたくないので、今回も観光を絡めてついでに統一号も乗っておくことにした。

行き先は春川。ソウルから2時間ほどで、日帰りでも充分に楽しめるところ。2年前に1度行ったことがあるが、昭陽湖のワカサギのフライが美味なので、今回はそれを食べることを主目的とした。ついでに春川が発祥の地であるタッカルビも食べられるなら食べておこうか。

清涼里から春川を結ぶ京春線は1時間に1本、ムグンファ号と統一号が交互に出ている。グレードとスピードの面ではムグンファ号のほうが上のクラスとなるが、今回は統一号に乗るのが目的なので、敢えて統一号のチケットを取る。当日は夜に約束があるのでそれまでに帰らないといけない。ということで先に帰りのチケットも予約するが、ほとんどの列車が満席。かろうじてムグンファ号のチケットが取れたものの、できるだけ多く統一号に乗ろうという当初の目的からははずれてしまう。ちなみに、両者の所要時間を比較すると、わずか10分の違いでしかないのに、料金は2倍の格差がある。

7時50分発のチケットを取ったが、当日起きたのは7時過ぎ。あわてて準備をして家を飛びだす。駅についたのは出発10分前だが、窓口で予約したチケットを買わなくてはいけない。だが、こういうときに限って窓口は行列。しかも会員用窓口だけが長蛇の列。もう改札は始まっているので気が急くがしかたない。順番が来てチケットを受け取ると改札に向け猛ダッシュ。どうにか間に合った。

京春線は北漢江沿いを走る。この周辺は大学生のグループが多く訪れるためか、車内も大学生が多い。週末ともなれば立ち席客もかなり出るらしい。きょうは平日なのでそれほど込んではいないが、それでも満席に近い。その中を車内販売が何度も往復する。ちなみにオレの席は通路側だったので車窓を楽しむこともできず、早起きで眠いのでほとんど寝て過ごす。

■左:統一号のサボ ■右:統一号


9時45分に春川到着。駅前は在韓米軍の基地があり、いきなり鉄条網と塀が目に入る。
駅を出ると左手に観光案内所があるが、ちょうど昭陽ダム行きのバスが目の前に停まっていたので乗り込む。目指すダムまでは1200ウォン。昭陽ダムは昭陽湖という人造湖に作られたダムで、春川一の観光名所でもある。前回ここでワカサギのてんぷらを食べたのだが、春川はワカサギでも有名だ。時期がちょっと遅かったが、1月から2月初めには氷上でワカサギ釣りも楽しめるらしい。そんなわけで、2年ぶりにワカサギを食べようというわけ。
バスは出発間際に幼稚園児の団体が乗り込んできて、オレの隣にも2人のガキが座る。30分ほどの道のりで、急におとなしくなったと思ったら、終点間際でビニール袋かかえてゲロゲロ言ってる。終点に近づくほど山道は険しくなり、急カーブの連続となるのでそれで酔ったのだろうが、よりによってオレの隣でゲロゲロしなくてもいいではないか。
なんかうんざりしながらバスを降りる。

■左:昭陽ダム ■右:ワカサギ(?)のモニュメント


昭陽湖には遊覧船がいくつかあるので、それに乗ってみようかと思う。乗り場に向かって歩いていくと左側に小さな小屋が軒を連ねる。これがワカサギを食わせる店だ。平日の午前中のせいか、開いていない店も半分くらいある。それを横目で眺めつつ、遊覧船のりばに向かう。チケット売り場のおやじには対岸にある清平寺を見て戻る往復コースを勧められるが、それは2年前に行っているので、昭陽湖を一周する遊覧船に乗ろうとするが、「きょうは平日だからない」とのこと。週末に客が多くないと動かないそう。面白くないのでそのままワカサギを食べに行くことにする。

小屋に掲げられた看板には、どの店も必ずワカサギのてんぷらと書かれているが、いくつかの店には刺身もあると書いてある。あんな小さな魚を刺身にするとは興味深い。ぜひとも食べてみたいところだ。

20軒以上あるうちのひとつに入る。店といっても幅3メートル、奥行き1.5メートルほどで、ちいさなテーブル2つしかない。屋台を少し立派にしたようなもの。とりあえず、てんぷらと刺身を半分ずつ頼む。酒は焼酎、マッコリ、ビールとなんでもあるというのでビールを頼む。ほんとは焼酎でも飲みたいのだが、平日の午前10時半から飲んだくれるわけにもいかない。つーか、きょうはまだなにも食べてなくて、誇張抜きで1滴の水すら飲んでいない。この状況で焼酎は危険だ。ビールでのどをうるおしホッとひといき。

■左:20軒以上のワカサギ料理屋 ■右:各店の入口には水槽に入ったワカサギが


さて、刺身である。店のおばさんの動きを注視していると、ネギとタマネギとセリを韓国風の辛いミソであえはじめた。これがつけあわせになるのかと思っていたら、水槽からワカサギをすくって混ぜ始めてた。刺身なんかではなく、踊り食いというわけだ。看板には「フェ」と書いてあって、それは日本語では通常「刺身」と訳される。だから刺身だと思ったのだよ、オレは。

「はい、おまちどう」と出されたのはボウルに入ったワカサギの刺身、もとい「踊り食い」。ピチピチ跳ねるので、和えたミソがあたりに飛び散る。メガネにも飛び散る。メガネしてなかったら目に直撃してたかもしれない。危険な食べ物だ。

これを注文したのはほかならぬ、このオレだ。おばちゃんに勧められたわけでもなく、自分から「刺身もくれ」と注文したのだ。しかしまぁ、なんかテンションが下がる食べ物だ。ワカサギを箸でつまむと全力で身もだえして暴れまくる。そっと口に含むとえもいわれぬ罪悪感。噛みしめるとウヒャ〜! こりこりとした歯触りがウヒャ〜! テンション下がりまくりで、ビールを飲んでテンションを引き上げにかかるが、たちうちできない。オレも韓国に来てから、カイコのサナギだ犬肉だと食べてきたが、ここまでテンションの下がる食べ物は初めて。それは想像外のものが出てきたせいなのかもしれない。ついでに、味が韓国風なのがダメだった。醤油で和えてくれたならあるいは「うまい!」とむさぼり食っていたかもしれないのだが、ちょっとオレの味覚には合わないようだ。

■左:ワカサギの踊り食い ■右:ワカサギのてんぷら

■ワカサギの踊り食い


そこに真打ち登場。ワカサギのてんぷらである。思い起こせば25年前。家で夕食にワカサギのフライが出てくるのがいやだった。独特のほろ苦さは子どもには酷である。あのころは「ビールのつまみにいいかも」なんて発想があるわけもなく、母親に「いいから食べなさい!」と怒られながら食べさせられた記憶がある。それが大人になった今ではわざわざ春川まで来て食べるほどなのだから恐れ入る。ころもがたっぷりでカラッと揚がったワカサギは美味で、冷えたビールによく合う。刺身とてんぷらを半人前ずつとビールで1万8000ウォンは高い気もするが、いたしかたなし。

ほろ酔い気分で店を出ると、来た道をバスに乗り市内中心部に向かう。まだ午前11時過ぎで、この時間に昭陽湖から市内に向かう客はだれもいない。市内に着くまでバスにはだれも乗ってこなかった。

さて、市内中心部についたところで観光案内所を探すことにする。昨年オープンしたアニメーション博物館というところに行きたいのだが、それがどこにあるのかわからないためだ。いちおう下調べはしたのだが、どうせ案内所で聞けばいいと思ったので詳細は把握していない。ただ、市の中心部ではなく郊外にあるということはわかっている。そこまでの交通機関を知りたいのだ。
観光案内所が駅前にあったのはわかっているのだが、市内の繁華街にもあるだろうと踏んでいた。ドラマ「冬のソナタ」の撮影地となったおかげか、街には日本語と中国語で観光客を歓迎するとかなんとか垂れ幕が多くかかっているわけで、観光客が多く訪れる繁華街なら案内所くらいあるだろう。
ところがないのである。まるでそれらしきものは見当たらない。春川は地下街も発達しているのでもしかして地下かも知れないと歩き回るがまったくない。

かくなるうえは交番を訪ねるか。交番は観光案内などしてくれるわけもないが、それでも、案内所がどこにあるかくらいは教えてくれるだろう。偶然に交番の前を通りかかったので入ろうとするとカギがかかっている。よく見ると「ただいまパトロール中。ご用の方は下記に電話下さい」と張り紙。警察に電話して尋ねるような話でもなく途方に暮れてしまった。
そこに「春川国際観光ホテル」の看板を発見した。ホテルに宿泊するつもりはないが、せめてパンフレットの類いでもないだろうか。観光ホテルというくらいだからそのくらいはあるだろう。看板の矢印に沿っていくとすぐにホテルを発見した。しかし無情にも入口にはカギがかかり、「内部修理中」の張り紙が。たぶんつぶれてしまったのだろう。
にっちもさっちもいかない状況に追い込まれたオレは、ならば博物館の電話番号を調べたほうが早いかと思い、近くの公衆電話に駆け込んだ。職業別電話帳を繰るも、「博物館」のカテゴリーには記載がなく、「美術館」とか別のカテゴリーでも探したが記載なし。

■案内所を探して歩き回る。春川の繁華街の風景


ならば、である。観光公社が運営する外国人向けのテレホンサービスがある。ここに電話すれば解決策が見つかるかもしれない。電話番号は局番なしの1330番。さっそく自分の携帯電話でかけてみると、すぐにつながった。「春川にあるアニメーション博物館なんですが……」とたずねると、案内員は「ん〜、春川でしたら春川市の観光案内にかけてください。番号は252−0088です」という回答をよこす。えーと、外国人用の案内電話ではないんでしょうか? オレはたしかに韓国で受け答えしていたが、韓国語ができる人は利用できないのだろか?(だったら最初から「ヨボセヨ?」なんて出るなよな) なんだかしらないが、教えられた電話番号は市外局番がない。携帯電話でそのままかけると、その携帯キャリアの252−0088にかかってしまうので、ここは市外局番を調べないといけない。近くの店の看板などをみるが、電話番号は書いてあっても市外局番までは出ていない。しかたなく、公衆電話からかけることにした。それなら市外局番は関係ない。
さっそくかけてみると、「ピィーーキュルキュルキュル〜」と聞いたことのない韓国語が返ってきた。ていうか、それはファクスなんですが。ファクスに電話してなにを教えてくれるというのだろうか? だんだんイライラも募る。かくなる上は、急がば回れということで、駅前に移動すべきだ。これ以上ここでさまよっていてもまるでらちが明かない。

タクシー乗り場でタクシーを待っていれば、多くの客は乗り場の50メートル手前で手を上げタクシーを捕まえていく。なんのためのタクシー乗り場なのかさっぱりわからない。ソウルの場合、タクシー乗り場の手前で手を上げればタクシー運転手が前を指さして「あそこで乗れ」と教えてくれるが、春川にはそういう習慣はないらしい。だったらタクシーのりばなんか作らなければよかろう。律義に待っている日本人観光客の怒りは爆発寸前。どうにかやって来たタクシーに「駅前!」と不機嫌に告げ(運転手に非はないんだけどな)後部座席でふんぞりかえる。
で、駅前にたどりついたのは1時10分。帰りの列車は4時45分なので、時間の余裕がそれほど多いわけではない。さっさと案内所に行くと、なんとまぁここでもカギがかかっていて、「1時40分まで昼休み」と張り紙。もうね、怒り心頭。案内所の職員にも昼休みは必要だろう。でも中のパンフレットすらもらえないっていうのはどうよ? 市内ではウロウロしながら、このままとっととソウルに戻ろうかとすら思っていたのだが、ここまでくると怒れる日本人は引き下がれるかと強気の姿勢。5万ウォンでも10万ウォンでもいいのでタクシーで行ったらぁ。
幸いタクシーはすぐに来た。料金を聞くと1万ウォンほどだという。予想より安くすんだのでなにより。ここでタクシーがこなかったら、怒れる日本人はハイヤーをチャーターするなり、観光バス1台チャーターするなりしていたところだ。お前はそんなにアニメに興味があるのかと問われればまったくそんなこともないのだが、意地だ、意地。田舎の観光産業になめられてたまるか。

■左:アニメ博物館 ■右:映画の看板を描くおじさん。もちろん人形


タクシーは30分ほど走り博物館に到着。駅からだと直線距離は近いのだが、衣岩湖をはさんだ対岸にあるためものすごい大回りを強いられる。タクシー料金は8600ウォン。
3000ウォンの入場料を払い館内へ。アニメーションの歴史からアニメの原理などの紹介のあとは、韓国におけるアニメの歴史、海外各国のアニメ紹介などが続く。韓国アニメの歴史コーナーでは、60年代の貸本屋や映画館など当時の街並みを再現した一角もある。最近の韓国はこういう面での発達も進んでいるようだ。
海外アニメのコーナーではもちろん日本のコーナーもあり、入口ではタイガーマスクや矢吹丈の等身大人形がおでむかえ。キャプテンハーロックの予告編ビデオが流れていたり、古くさいアニメキャラのフィギュアが展示されていたりで、なかなかおもしろかった。ついでに北朝鮮のコーナーもあり、北朝鮮の特撮映画「プルガサリ」のフィギュアも展示されていた。この映画、ソウルで公開したときには話題になったものの、実際には観客動員が3ケタしかいかず、早々に打ちきられたとう寂しい記録がある。オレも会社の同僚と見に行ったが、観客はオレらを含めて4人しかいなかった。

■左:矢吹丈がおでむかえ ■右:北朝鮮の特撮映画「プルガサリ」


そんなこんなで館内は見終わった。果たして高い交通費をかけてまで来る価値があるかどうかについては疑問だ。さて、市内に帰ろうか。受付嬢に帰りのバス乗り場を尋ねると、次のバスは1時間以上待たなくてはいけないらしい。ならばタクシーを呼ぶしかない。電話番号を教えてもらいタクシー会社に電話すると15分くらいでやって来た。市内中心部となる中央ロータリーで降りる。料金は8900ウォンに、呼び出しで1000ウォンの追加料金となった。太白の洞窟ではコール料金は取られなかったのだがなぁ。地域によってスタンダードが異なるのはどうにかならんのか。

さて、さっき観光案内所をさがしてさんざっぱら歩き回った繁華街である。結果として、観光案内所はここにはないことが判明した。いまさらどうでもいいけどな。
春川といえばタッカルビである。日本では「ダッカルビ」というまずそうな名前で広まってしまいましたが、語頭のt音は濁らないので「タッカルビ」が正解。そのタッカルビ屋がいっぱい集まった横丁が存在する。少し前に見た新聞では、鳥インフルエンザの影響で客足が急速に落ちているようである。オレは鳥インフルエンザもBSEも関心ないし、長生きしたいとも思わないのでウマイものを食えるだけ食って死んでしまえばそれでいい。落ち込む一方の鳥肉の消費回復に向けささやかながらオレもお手伝いをしたい。
でも問題は、タッカルビは1人前では売ってくれないということ。値段は1人前いくらだが、注文は2人前以上が基本。タッカルビに限らず、焼き肉や鍋ものでも1人前はまずやってくれない。でもオレは1人なわけで、いくら大食いのオレでも2人前は食えない。そもそも、春川のタッカルビは量が多いのである。前に来たときも2人で2人分を頼んだら3〜4人前はある量が出てきて往生した記憶がある。

■左:調理開始 ■右:完成


消費も落ち込んでいることにつけ込んで1人前ででも作ってもらいたい。込んでる時間帯ならいやがられるかもしれないが、時間は午後3時を過ぎたところ。こんな時間にタッカルビを食べる人もいないだろう。横丁に足を踏み入れてすぐ、人のよさそうな客引きのおばさんと目が合う。すかさず「1人前ですがだめですか?」と尋ねると、店主らしき人に確認を取った後、「どうぞ」と招き入れてくれる。ついでにビールも頼み、タッカルビの出来上がりを待つ。待ちながらおばさんに鳥インフルエンザの影響をたずねると、どうも最近は回復しているようである。
予想通りに大量のタッカルビが完成したのでむさぼり食らう。冷たいビールもあり幸せ気分。さっきまでのイライラ気分もどこかに吹き飛んだ。満腹になり店を出る。

帰りの列車まで1時間ほどあるので、コーヒーでも飲んで時間をつぶそうかと思う。春川は江原道の道庁所在地で結構な都会だ。ファーストフードもマクドナルドにロッテリア、KFCにダンキンドーナツとほとんど揃っているし、地下街が発達していてびっくり。フードコートになっている一角もある。が、いわゆるスタバ系のコーヒーショップはお目にかかれなかった。探し方が悪かったのだろうか。とりあえず地下街でテイクアウトのコーヒー屋を見つけたのでアイスコーヒーを購入し、地下の広場で座って飲む。前回旌善線に乗りに行ったときは食事をぜんぜんしなかったのに、今回はワカサギにタッカルビとうまいものをたらふく食べて大満足であった。しかも食後にコーヒーまで飲んでるし。

■左:意外に発達している地下街 ■右:こんなポスターばっか。


時間が来たのでタクシーに乗り駅に向かう。20分前に到着し、駅周辺をうろうろしながら改札の開始を待っているとほどなくアナウンスが入ったのでホームに向かう。帰りの列車はムグンファ号。行きの統一号はリクライニングもできないシートだったが、ムグンファはリクライニングもできるのでちょっと楽である。
列車は満席どころか立ち席まで出るほど込んでいる。またしても通路側なので、持参の雑誌を読みながら眠る。清涼里到着後は日本人仲間との飲み会で梨泰院の焼き肉屋に直行。おみやげに包んできたワカサギのてんぷらはそこそこ好評だったが、3時過ぎに食べたタッカルビのせいで、せっかくの焼き肉はほとんど食べられなかったのが惜しまれた。まぁいいか。


主な出費
清涼里→春川(統一号)
 2,700ウォン
昭陽ダム往復(バス) 
2,400ウォン
ワカサギ料理
 18,000ウォン
博物館往復と市内移動(タクシー)
22,000ウォン
タッカルビとビール、コーヒー
12,000ウォン
春川→清涼里(ムグンファ号)
5,400ウォン
合計
62,500ウォン

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