順天・全州編 (2003.12.18)
1カ月ぶりに遠くへ行くことにした。いつもは乗る列車だけ決めておいて、最終的な行き先はなにも考えずに行くというパターンだが、今回は先に行き先を決めた。
韓国には民俗村という観光施設がいくつかある。昔の建物やら生活風習などを保存しているもので、京畿道竜仁の「韓国民俗村」が観光客に有名だ。 今回の行き先はその民俗村のひとつ、「楽安邑城」なるところ。朝鮮王朝時代の1400年代に築かれた城郭の中の村で、その当時の姿がそのまま残されているという。ユネスコの世界遺産への登録も進めているとかで、新聞に出ていた写真を見てなんとなく行ってみたくなったというわけ。竜仁の民俗村が作られたものであるのに対し、楽安邑城は当時からの建物をそのまま使っていて、しかも現在も人が住んでいるという。
さて、その楽安邑城は全羅南道の順天の近くにある。ではどうやって行くべきか。
毎度おなじみ寝台車を使いたい。いちばん便利そうなのはソウルから麗水まで寝台車で行き、麗水から順天まで引き返すというコース。ただ、これだと5時10分に麗水について、5時20分の列車で順天に向かうと6時前の到着になる。列車の遅れを考慮して1本遅い6時28分の列車に乗っても、7時過ぎに到着することになる。
これまでの旅行で、駅周辺の観光案内所はそんな時間にはやっていない。順天からの行き方を調べてないので、そんな時間に放りだされても路頭に迷うばかりである。
そこで木浦行きの寝台車にすることにした。5時17分に到着し、食事などしながら時間をつぶし、6時45分発の順天行きに乗れば10時30分に順天に着く。さすがにこの時間なら案内所も開いてるだろう。麗水からの折り返しだと新規乗車区間が増えないが、木浦経由ならわずかながらも乗車区間が増える。麗水行きは22時50分発なのに対し、木浦行きは23時40分発なので、時間に追われる仕事をしている身としては木浦行きのほうが時間に余裕があるという事情もある。
木曜日。会社を終えソウル駅までタクシーをかっ飛ばして11時にソウル駅に到着。今月初めからソウル駅は高速鉄道の乗り入れ準備で従来の駅舎から新しい駅舎に移転している。近代的な造りの駅はなかなかかっこよく、コンコースに入るとまるで空港のようでもある。
近くに住む友だちを呼びだしてマクドナルドで食事をしているうちに出発時刻が迫ってきた。前回木浦に行ったときの寝台車は、予想を裏切り旧型車が来てしまい、なんともやりきれぬ思いをしたものだが、今回はどうなるだろうか。今回も旧型車であるならば、木浦行きの寝台車にはこれ以上乗る価値はない。
ホームに降り最後部までたどり着くと、ホッと安心。ちゃんと新型の寝台車だった。前回の旧型車はおそらく、新型車の点検かなにかで臨時に使われたのだろう。
水とおしぼりをもらって自分の部屋に入る。今回も上段。上段のメリットは、直立できるスペースがあることだろう。今回はロングコートを着てきたのだが、下段だとハンガーはあってもこれをつるしておくことができない。上段は階段部分があるので、手すりにでもかけておけばよろしい。1万ウォン安いのに居住性は上段のほうが快適というのはどうしたことか。
■左:新しくなったソウル駅 ■右:まるで空港みたいなコンコース
雑誌などを読みながら眠りにつく。途中で目が覚めたので外をのぞくと雪景色。うっすらと雪が積もっているのはいいのだが、電柱などは片面に雪がへばりついている。風が強いのだろうか。防寒対策をあまりしてないので心配になる。
うつらうつらしながら木浦に到着。高速鉄道開業に向け線路の付け替えが行われたので、木浦駅周辺の路線は前回乗った路線とは微妙に異なり途中に地下区間などもある。高速鉄道の開業は韓国の鉄道事情を一変する大プロジェクトなわけで、今後もいろんな変化がありそう。開業する4月までに極力いろんなところをまわりたいところ。
5時17分の到着で、順天に向かう列車は6時45分発。1時間半の時間を潰すために駅を出てすぐの食堂で食事をとるが、30分もあれば充分で、あとはコンビニでコーヒーを買って駅の待合室で時間を潰す。
順天に向かう列車はいちばん低いクラスの統一号。座席指定などという気の利いたものはない。木浦が始発なので席を確保するのは容易だが。
窓口で切符を買うと、駅員は「順天まで?」と驚く。200km近い距離を鈍行で移動しようというのだからそりゃ驚くだろう。高速バスが発達した韓国において、長距離鈍行列車の存在意義は極めて薄い。この列車とて、長距離を走るが、木浦から順天まで通して乗る客はほとんどおらず、木浦―光州とか光州―順天という需要を担っているにすぎないだろう。
改札が始まったのでホームに向かうが、客車列車が来ると想像していたのに、残念ながら普通の気動車。最近は客車による統一号はほとんどなくなっているようだ。旅情の面からは旧型客車にごとごと揺られ、というのがいい味なんだがなぁ。3両編成の軽快気動車では旅情は半減。
■左:気動車にがっくり ■右:窓の外は雪景色
7時を過ぎて夜も明けてきた。窓の外は雪模様。気温も相当に落ち込んでいるよう。厳冬の韓国で旅行というのはしんどいかもしれない。「遠くへ行きたい」という企画ももう少し早く実行していたらこんな苦労もないのになぁ。
列車は予想通り、途中の松汀里で多くの客が降り、次の西光州でたくさん乗ってきた。いずれも光州市内の駅で、ここを通過する8時台は通勤時間帯でもあるため、この列車も通勤列車としてのニーズが高いようだ。
雪はさらに激しくなり、吹雪いているのだが、順天に近づくにつれ弱まり、順天についたときには青空が広がっていた。駅を降りて外にでると気温は氷点下で、風が強いので体感気温はかなり低い。
駅前の観光案内所に入り楽安邑城までの行き方を聞くと、「68番のバスに乗れ」とのこと。ただ本数が少ないという。今は10時30分。係のおばさんは「10時30分のバスはまだ着いてないはずだから、急いでいけば間に合う」と言う。これに乗り遅れると次のバスは1時間後だ。礼もそこそこに、徒歩5分のバス乗り場までダッシュする。
乗り場に着いたが、バスはなかなか来ない。10時40分。まだ来ない。案内所のおばさんは「まだ着いてないはず」と言っていた。「はず」だから確実ではなく、おばさんの予想にすぎない。平日の午前中にそんなに道路が込むとも思えず、遅れるにしても10分以上遅れることはないだろう。すでに時計は10時50分を過ぎている。さては乗り遅れたか。寒風吹きすさぶバス停で途方に暮れていると、運良くその68番のバスが現れた。定刻の30分遅れで走るバスって……。
バスは市街地を抜け山道に入り40分ほど走り楽安邑城に着いた。
■左:青空の順天駅 ■右:楽安邑城の入口
入場料1100ウォンを払い城郭のなかに進入する。中はわらぶき屋根の家が軒を連ねる。ここは観光施設ではなく、実際に人が住んでいるところなので、どの家にも郵便箱があったり、自動車があったりで、何百年も前の家が残っているといっても住んでいる人たちの生活は近代化されている。そのギャップがなんかおもしろい。ついでにどの家にも「主人の許可なく立ち入りを禁ずる」と書いてあった。ただの観光施設だと思った観光客が傍若無人に人の家に立ち入ったりするんだろうなぁ。
村の中には民宿もある。事前に知っていたので、気が向いたら泊まってみてもいいかと思っていたのだが、楽安邑城自体はそんなに大きなものでもなく、1時間もあれば1周できる程度の規模なので、泊まったところで時間を持て余すだけになりそうだ。シーズンによってはいろいろイベントもあるらしいけど、オレが行ったときは観光客らしい姿はほとんど見かけなかった。帰る間際に中学生の団体が来たくらいだ。観光客だけでなく、村の住人もほとんど見かけなかった。寒いからきっと屋内にこもっているんだろうけど、これじゃまるでゴーストタウンだ。
■なんかいい雰囲気でしょ?
村を囲む城郭は長さ1400メートル。城郭に登って歩くと村の様子がよくわかる。城郭は途中3カ所に外部につながる門が設けられている。村の中にある建物はほとんどがわらぶきで、瓦屋根の建物はエライ人たちが住んでたところらしい。現在ではわらぶきの家には人が住んでいるが、瓦屋根の建物には人は住んでいない。
つーかよ、もう泣きたくなるほど寒いんですが。雪もチラチラ降ってくるし、なんかいつまでもここにいてもしょうがない気がしてきたぞ。
■左:城郭からの眺め。実は左側は城外 ■右:やや上から見下ろした風景。右側が城外
■楽安邑城の全景
入口の近くにわらぶきの家を利用した食堂があったので、そこでなにか食べて行くことにする。いくつかあるうちの1軒に入る。中に客はいない。食べるところは屋外で、まわりはビニールシートで囲われているので風は防ぐことができる造りになっている。店のおばさんがでてきたのでパジョン(お好み焼き)とトンドン酒を頼む。おばさんは「外は寒いから中に入りなさい」と家の中に招き入れてくれる。家の中、というか、この家の台所なんですが。2畳ほどの部屋に冷蔵庫とか戸棚が置いてある。まったく普通の家庭の台所に入れられてしまったわけだが、まぁ外にいるよりはマシである。運ばれて来たトンドン酒を飲みながらパジョンをつつく。まぁ可もなく不可もなく。こんなものでしょう。
さて、まだ昼の12時過ぎなのである。次の目的地を考えなくてはなるまい。パジョンを食べながら、前に内蔵山に行ったときに全州に行きそびれたことを思い出した。馬耳山には行けそうもないが、全州くらいなら行けそうだ。よし、きょうの夕食は全州でビビンバとしゃれこもう。
■左:えらい人のお宅は誰も住んでない ■右:酒とパジョンでごきげんだ