順天・全州編 後編


そうと決まればさっそく移動だ。さっき降りたバス停に行くが、反対方向のバス停が見当たらない。たまたまバスを待っていたおばさんに「順天駅はこちらでいいんですか?」と尋ねると、「こっちでいいけど、さっき行ったばかりだからしばらく待たないと来ないよ」との答え。しまった。バスが1時間に1本しかないのをうっかりしていた。1時間待ってもいいのだが、なにせ風も強くて寒いことこの上ない。ちょうど目の前にタクシーの営業所があったので駅までいくらか尋ねると1万8000ウォンだという。バス停にいたおばさんもタクシーなら1万7000ウォンくらいだと言っていた。寒空の下で1時間ぶるぶる震えてバスを待つくらいならタクシーに乗ったほうがよさそうだ。交渉成立で乗り込むと30分ほどで駅に到着。なのだが、全州に向かう列車の時刻が合わない。現在時分1時20分。3分前に全州方面に向かうムグンファ号が出たばかり。しかたなく1時間待ちで次のムグンファ号のチケットを取る。時間までヒマなので駅周辺をぶらぶらしてみる。特になにもない普通の地方都市という感じ。どの道も横断歩道に信号がないのが気になった。都会育ちのオレは車がビュンビュン走る道路を渡ることができない。駅周辺をまわるだけでへとへとになったのでおとなしく待合室で列車を待つことにする。
改札が始まりホームに向かうころにはまた雪が降ってきた。かなり激しい降りで、先行きに不安を覚える。きょうは傘持ってくるの忘れたのでこのまま降られても困るのだ。

■左:雪が降ってます ■右:全州駅(カーソルを重ねると夜景になります)


14時12分発のムグンファ号に乗ると全州までは1時間45分の道のり。全州到着は15時56分となる。トンドン酒のせいか眠くなっているのでしばし仮眠。鉄道全線に乗るという企画の割に、寝てばかりで車窓風景などぜんぜん見ちゃいない。まぁいいのだが。
目が覚めたら4時になっていた。しまった。寝過ごしたか。とあわてたが、単に列車が遅れているだけということがわかりホッとする。とりあえず無事に全州に着いた。ここに来たのはビビンバを食べるためだけ。6時になれば日も暮れるので観光できる時間はほとんどない。駅前の案内所で「いちばん美味しいビビンバの店を教えてくれ」とたずねると、こういう質問には慣れているのか、お店の名刺を差し出し、「この店が評判がいいので行ってみなさい」と案内してくれる。
全州も韓国の地方都市の典型で、駅と市街地が離れている。目指すお店は市の中心部にあるのでバスに乗らなくてはならない。案内所では「市内に行くバスはいっぱいあります」と言いながらバスの番号をメモしてくれたのだが、待てど暮らせど目指すバスは来ない。どうもきょうはバス運が悪い日のようだ。時間がもったいないのでまたもタクシーに乗ることにする。市の中心部を目指すなら豊南門や客舎に向かうのが便利。目指す店も客舎の近くにある。タクシーで15分ほどで客舎に到着。客舎というのは朝鮮王朝時代の建物で国宝に指定されている。そういうものにあまり関心がないので、興味のある方は自分で調べましょう。
内蔵山の回でも書いたが、全州に来るのは留学時代の96年秋以来のこと。内蔵山から馬耳山をめぐる旅行で男女2人ずつの4人で来たのはいいが、行楽シーズンだったのでソウルにその日のうちに帰るチケットが取れず、どうにか確保した2枚を女性2人に譲ったので、夜遅くのバスチケットを持った男2人はソウルに戻るのは遅くなったが、全州市内を観光し、ついでにうまいものを食べられるという恩恵にあずかったのである。その時は馬耳山に行くのが目的だったため、全州市内の観光はしてなくて、バスターミナルと駅を行ったり来たりしながらチケットの確保に追われていたのだった。
そんなわけで、全州市の中心部については多少の土地勘はある。客舎は残念ながら改修中で中には入れず、写真も撮れなかったので、近くの豊南門に向かう。豊南門は全州の周囲にあった4つの門のうちのひとつ。4大門のうち3つは撤去されてしまったが、豊南門だけは残され、国宝に指定されている。近くには全羅北道の道庁があり、こちらは日本統治時代の建物。オレとしては豊南門とか客舎みたいな大昔の建物よりは、日本統治時代の建物の方に魅かれる。日本統治の善し悪しは別にして、当時の建物は意匠をこらした素晴らしい建物が多い。日本憎しで取り壊されてしまうのが趨勢だが、文化財的には貴重なものが多いので末長く残して欲しいというのは勝手な言い分だろうか。

■左:豊南門 ■右:繁華街


雪が激しく降りだしてきた。時間は6時少し前。ちょっと早いけどビビンバを食べに行こう。
ソウルでビビンバの名店として知られる「全州中央会館」は日本のガイドブックには必ず紹介される名店である。客のほとんどが日本人というのがなんとも泣けてくるが、その本店はもちろん全州にある。目的の店に向かう途中でその本店があって心魅かれたのだが、ソウルでも食べられる味であるならばさほどの魅力はない。浮気はしないで案内所で紹介された店に向かう。

■左:紹介された「盛味堂」 ■:店内のようす


店は細い路地を入ったところにあった。中に入ると客は1人だけ。平日の6時前だからこんなものだろうか。40年伝統の店というので期待してきたけど、ちょっと寂しい。そう言えば中央会館の本店もあまり人は入ってなかった。もっとも、いくら全州がビビンバの本場だからといって、全州市民が毎日ビビンバを食べてるわけでもあるまい。
メニューを見る前から「ご注文は?」と聞かれるので面食らう。とりあえずビビンバとビールを頼む。しばらくして出てきたのはおかずのお皿。全部で9皿もある。ソウルではおかずが5皿も出れば感激の声があがるほどだが、地方では5皿なんてあたりまえ。木浦の食堂だって6皿でてきたっけ。ちなみに中央会館のソウル支店は3皿しかでません。ただオレは好き嫌いが激しいので、9種類ものおかずが出たところで、食べられるのは半分くらいだったりするのだけどね。おかずをつまみながらビールを飲んでいるところに真打ち登場。金色の器に入ったビビンバ様がお出ましになった。って、待て。全州のビビンバといえば石鍋に入ったのではなかったか。まぁいいや。ぐちゃぐちゃにかき混ぜ食べる。うむ、うまい! と言いたいところだが、期待しすぎたせいか、それほど美味しいとは思えなかった。いや、まずいわけではないよ。でも「おいしい!」と言えるほどでもなかったと。

■左:9皿のおかずとビビンバ ■右:カーソルを重ねると完成


7年前に全州に来たときは、ビビンバではなくてトルソッパプというのを食べた。日本語にすると釜飯というところか。全州は味の都と言われ、うまいものが多いことで有名。コンナムルクッパも有名である。
さてビビンバを平らげ満腹になった。満腹になったのはいいけどなんとなく満足感は足りない。お腹に余裕があれば食べ歩きでもしたいところだが、さすがに無理そう。そろそろソウルに向かおうか。
時刻表を見るとソウルへは1時間おきに列車がある。今は6時半をすぎたところ。18時46分のムグンファ号には乗れそうにないので次のセマウル号に乗ることに決め、市内をふらついてから駅に向かう。
「遠くへ行きたい」で利用する列車はほとんどがムグンファ号で、セマウル号に乗ったのは内蔵山に行ったときに井邑から益山まで20分間利用したきりである。隣の席との間にひじ掛けのないムグンファ号ばかりでなく、たまにはセマウル号にも乗ってみたい。それもゆったりできる特室なら言うことなし。なので思い切って特室のチケットを取った。座席番号は22番。えー、偶数は通路側なのでいやなんですが。
文句を言ってもはじまらない。ビジネスクラス並のシートなので隣の席との間隔も広いし、シートピッチも広いから気にはならないだろう。
10分前に改札がはじまりホームに向かう。風が強くて涙が出るほど寒い。列車を待つ10分の間に体は芯まで冷えきった。特室は1号車なのでホームの表示に従って前の方まで行って待っていたが、列車が到着してみると思いっきりずれた場所に停車してくれる。ウソの表示はしちゃいけません。ただでさえ停車時間短いんだから。
ぶつくさ言いながら車内に足を踏み入れると、特室は席の並びが通路をはさんで1列と2列の配置。前にもセマウルの特室に乗ったことがあったけど、そんなことは覚えていなかった。席が3列ということは、忌まわしき偶数番号の席は窓側にあたった。特室の席番号から座席の位置を判断する場合、3の倍数は1列シート、3の倍数+1が2列シートの窓側にあたるということを覚えておきましょう。特室の料金は5000ウォンほど。日本円で500円そこそこで格段にグレードアップするというお手頃な料金ではあるものの、ただでさえ高いイメージのある鉄道運賃、それもグレードがいちばん高いセマウル号で、さらにランクの高い特室を利用する庶民はあまりいないようで、この列車も乗車率は半分ほど。レッグレストがあり、深く倒れるリクライニングシートのおかげで非常にゆったりと快適なので、今後はできるだけ特室を使いたい。ただ、ムグンファ号の特室はイマイチ料金分のお得感に欠けるのでおすすめしない。

■セマウル号の特室はお値打ち価格!


ソウルまでは3時間半の道のり。無料サービスの飲み物などを飲みつつ、雑誌を読んで時間を過ごす。ソウル到着は23時。ソウルは多少寒さも和らいだようで、ちょっとホッとした。

主な出費
ソウル→木浦
50,100ウォン
木浦→順天
4,600ウォン
順天→楽安邑城(バス)
800ウォン
食事(パジョン+トンドン酒)
9,000ウォン
楽安邑城→順天(タクシー)
18,000ウォン
順天→全州
6,800ウォン
食事(ビビンバ+ビール)
11,000ウォン
全州→ソウル
27,700ウォン
合計
128,000ウォン

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