木浦・内蔵山・群山編 (2003.10.30)
天高く馬肥ゆる秋なのだ。肥えてるのは馬だけじゃないわな、などとオノレのふくれた下っ腹をなぜつつ、また旅に出ることにした。前回の麗水編はろくにスケジュールも立てなかった割に、思いがけず巨文島まで訪れる結果となり、流れるままに、気の向くままにというコンセプトは成功したと言えるだろう。さて、今回は木浦までのチケットを取った。麗水編で利用した寝台車にはまってしまったのでまた乗りたくなったのだが、寝台車をつないでいる列車はごくわずかで、時刻表を見るかぎりでは、ソウルから麗水、木浦に行く列車だけしかない。あとは週末の臨時列車で釜山行にあるだけ。週末の釜山行というのも悪くないが、仕事の都合上、オレにとっての週末は金曜と土曜になる。土曜日の夜行列車では翌日の仕事に支障がある(いや、早朝にソウルに到着するのなら問題はないかも)。ということで、今回の木浦行きとあいなった。
月曜日にインターネットで木浦行き寝台車の空席照会をしたところ、木曜日発は上段下段とも残数14席ずつ。すなわち、1枚も売れていないということ。それならば、ということで上段1枚を予約しておく。今回も勢いだけで突っ走り、木浦についての下調べはしていない。寝台車が空いていたということだけで舞い上がって思わずクリックしてしまったというのが正しい。まったくもっておめでたい性格だ。
出発当日の昼過ぎに、気になって空席照会をすると、上段13席、下段14席が残っている。出発当日だというのに、オレ以外はだれも予約していないのだ。これはもしかして寝台車貸し切り状態? それはそれで面白い。
出発時間は23時40分。麗水行の22時50分よりは時間の余裕がある。会社を出たのが22時30分。会社からソウル駅まではバスで15分もあればいけるので、出発までは約1時間ある。問題はメシだ。ソウル駅の周辺にはあまり食堂のようなものはない。駅コンコースにはケンタッキー、マクドナルド、バーガーキング、とファーストフードばかり。もちろん食堂もあるのだが、すでに営業は終わっている。ファーストフードは夜12時まで営業。時間も時間だし、駅からやや遠い食堂までメシを食いに行くのもかったるいので、仕方なくバーガーキングでわびしい食事。えーい、あとは車内でビールでもかっ食らって寝ちまおう。
バーガーを頬張りながら雑誌を読んで時間をつぶす。出発15分前に店を出て、ビールでも買おうかと売店に行くと、なんとすでに閉店。そりゃあんまりだ。水分補給用の水すら買えない。この時期の韓国はただでさえ乾燥している。車内はさらに乾燥してるのでノドを痛める可能性もある。水分補給は欠かせないので自販機でポカリスエットを買う。そういえば寝台車にはミネラルウォーターの配給があったっけ。でもまぁいいか。
改札が始まったので列に並びホームに降りていくと、前回同様に最後尾に寝台車がつながっている。でも前回とは様子が違う。車両の窓が大きい。なんだこりゃ。旧型車じゃないか。
■左:旧型寝台車 ■右:居住性悪い
ものすごくがっかりしながら車内にはいると、古くさい印象。自分の寝台のカーテンを開けるとハシゴがある。階段ではないところが旧型車ならでは。鉄パイプ製で、登るときは足が痛い。どうにか登ってベッドに横になるが、前回に比べ居住性は悪い。まず高さがたりない。前回はあぐらをかいて座れるだけの高さがあったが、今回はすこしかがまないとあぐらはかけない。その分、下段は高さがあるのだろう。1万ウォンの料金の違いはこうした居住性の面に起因するものなのだが、旧型車に乗ってその違いがよくわかった。
ちなみに居住性の低さはこれだけはない。前回は室内灯がついていて本を読めるだけの明るさを確保できたのだが、今回はショボイ枕灯があるだけ。とても本は読めそうにない。それと電源コンセントがない。別に電気製品を使うつもりはないが、車内にパソコンでも持ち込んでそこで旅行記を書きながら、というのもいいかなと前回ふと思った。でもパソコンなど持ってこなくてよかった。電源が使えなければ何の意味もない。そして窓。下段は普通の列車と同じ大きさの窓に対し、上段は小さな窓があるだけ。カーテンはなく、外の灯を遮断するには引き戸を閉めるのだが、これが建て付けが悪く、開閉のたびにものすごい音がする。カーテンがないので、カーテンをひっかけておくフックがない。これは寝るときにはずした時計とか指輪とか眼鏡をかけておくのに便利だったのだが、ないものはしかたない。入口のカーテンは内側からロックがかかるわけでもない。はっきり言って今回寝台車を選んだのは失敗だった。ビールでも飲んでふて寝したいところだが、そのビールもないわけで。そういえば水とおしぼりのサービスもなかったな。なんてこったい。
ところでスケジュールだが、木浦到着は5時17分。例によって早朝の到着なわけで、どうしたものかと考えていたのだが、今回は木浦は単なる通過地点と割り切り、すぐに折り返しの列車に乗ることにした。目的地は内蔵山。ここは紅葉の名所としても有名で、オレも留学していた96年当時に紅葉を見に行ったことがあるが、実にすばらしかった。もう一度行ってみたいと思いながら果たせずにいたのだが、ちょうどよい機会だから行くことにした。当時は内蔵山からさらに全州に向かい馬耳山まで足を伸ばした。今回はこのルートをたどっていくことにした。全州でビビンバを食べるのもまたよいだろう。
車内では3時間くらい寝ただろうか。4時過ぎに目が覚めた。持参の時刻表をめくりつつ、おおまかなルートと計画を立てる。木浦到着15分前に車掌が起こしに来て乗車時に預けた乗車券を返してくれる。オレの切符にはA4サイズの紙がホチキスでとめられている。車掌は「すみませんが、このまま駅員に渡して下さい」と言う。紙には「寝台券販売現況」と書かれている。コンピューターで打ちだされたもので、それによると、予約乗車したのはオレを含め3人、そこに車掌が手書きで加えたのが3人で、都合6人が寝台車を利用したようだ。
列車は木浦に到着した。湖南高速鉄道の建設工事が進んでいて、駅構内はあちこち工事中。改札を抜け駅を出るとなんとそこにはコンビニがある。麗水の駅前とはえらい違いである。が、コンビニがあるだけで、あとはやはり地方都市の駅前といった風情。そうだ、次の切符の手配をしなくては。出札口に戻り、6時25分発のムグンファ号で井邑までの切符を手に入れる。1時間ほど時間があるので、駅前の食堂で食事を取る。麗水の食堂はだれもいなかったけど、木浦ではそこそこの客の入り。キムチチゲを食べて駅に戻る。滞在時間1時間で木浦を後にし井邑に向かう。木浦はまた次の機会にゆっくり訪れることにしよう。
■左:早朝の木浦駅 ■右:キムチチゲ。今回の旅行で唯一まともな食事
内蔵山の入口は井邑市にある。井邑はもともと井州という名前だったが、全州、清州とまぎらわしいため何年か前に変更された。その井邑までは木浦から1時間半。8時に井邑に到着。ソウルを朝イチで出発するムグンファ号に乗った場合、9時45分に到着することを考えると、木浦から引き返してきても時間の有効活用につながっているのではなかろうか。
駅を出るとタクシーの運転手が近寄ってきて「内蔵山か?」と聞いてくる。観光客だとぼったくられる恐れがあるので、気合いを入れて交渉に臨まねばなるまい。「そうだ。いくらだ?」「1万ウォンだ」。交渉成立。ぜんぜん交渉なんてしてないけど。
■左:井邑の駅名標 ■右:駅の外観
タクシーに乗り込むと運転手が話しかけてくる。「1人で来たのか?」「そうだ」「あっはっは、1人で山登りとはさびしいねぇ。恋人でも連れてくればいいのに」「あっはっは。できればそうしてたよ」「あっはっは。現地調達という手もあるじゃないか」。すまん、オレも1人で山登りに来るような女とはあまりお付き合いしたくない。
話し好きの運転手は見どころなどを教えてくれる。「内蔵山登ったら、白羊寺に抜けるのがいいよ。そこから列車で帰ればいい」。なるほど、白羊寺という駅が井邑の3つ隣にある。それもひとつの選択だろう。
途中で給油などしながら登山口に到着。運転手は「3万ウォンで案内するけどどう?」と持ちかけてくる。「車で?」「そうだ」。いくら骨の髄までなまけぐせがついているオレとはいえ、今回は内蔵山に登るつもりでやってきた。そんなずぼらはするつもりはない。そもそも車では頂上まではいけない。「けっこうです。歩いていきますから」。ふとメーターを見ると1万5000ウォンの表示。え?固定料金じゃなかったの?そういえば最初に聞いたときに、「1万ウォンもあれば充分」みたいな言い方をしていた。ってことは、給油の間もメーターがまわってたのか。それよりも、最近のタクシーは後の席に座るとメーターが見えないのが多すぎる。ソウルでもどこでも、下の方にメーターをつけてるから、身を乗り出さないとメーターがわからない。このタクシーもメーターが見やすい位置にあればまわってることに気付いたのに。なんか腑に落ちない。でも教訓となった。次回からはメーターか固定料金かをしっかり確認することにしよう。
タクシーは登山道のぎりぎりまで来てしまったので、手前にあった観光案内所を素通りしてしまった。例によって案内図もないまま先に進むしかない。入山料を支払いいざ出陣。この時点でまだ8時半。いつもならまだ寝てる時間だ。なんて健康的なんだろう。
内蔵山にはいくつかの登山コースがある。今回目指すのは西来峰というところ。7年前に訪れたときと同じコースをたどる考え。7年前はソウルから高速バスで井邑まで来たのだが、到着が昼過ぎになってしまい、登山はしたものの下山の途中で日が暮れてしまいけっこう難儀した覚えがある。今回は9時前の登山開始であるから、昼には次の目的地に向けて出発できそうだ。
意気揚々と歩いていくと、ケーブルカー乗り場があった。ケーブルカーとは日本語で言うとロープウェーのことなのだが、韓国ではどこに行ってもケーブルカーという。では日本語で言うところのケーブルカーは韓国語ではなんというのだろうか?素朴な疑問を抱きつつ、乗り物好きとしてはロープウエーに乗らないわけにはいかないので早速チケットを購入する。目指す西来峰とは逆方向にある別の峰に行くもの。時間の余裕があるのでちょっと寄り道してみた。
ロープウェーを降り、300メートルほど行くと展望台があり内蔵山の様子が一望のもとに眺められる。ちなみに内蔵山というのはいくつかの峰が連なってできている。目指す西来峰はどれなのか実はわかっていない。だから案内図がほしかったのだが、まぁそれを言ったところでしかたあるまい。ところで目的の紅葉なのだが、ふもとの方はだいぶ赤く染まってきているのだが、上の方はまだ緑色のまんまだ。真っ赤に染まった山が強く印象に残っていたので思いついてすぐここに来ることを決定してしまったが、 ちょっと来る時期が早かったかもしれない。
■左:ふもとは色づいてます ■右:ロープウェー
とはいえ、来てしまったものは仕方ないので、ロープウェーで下に降り、西来峰を目指す。行く途中に案内所があったので案内図でももらうかと立ち寄る。いろいろな展示もある資料館的なところで、見るだけで楽しめる。しかし案内図はない。どうにかコピー版の案内図を手に入れる。ついでに白羊寺に抜けるコースを係のおばさんに聞いてみると、案内図に蛍光ペンで登山道をなぞってくれる。結構な距離がある。時間を聞いてみると「5時間くらいです」とのこと。さすがに5時間はつらい。歩くのが、ではなく、この旅行の主目的は列車に乗ることにあるわけで。ついでに次の目的地の全州にも早く移動したい。西来峰なら行って帰って2時間もあれば充分。しかたがないが、今回は西来峰だけで帰ることにする。
どうでもいいのだが、オレはきのうの昼休みに靴を買ったのだ。そしてそれを履いてきているわけだが、はき慣れてない靴で山登りをするとは、オレもなかなかのチャレンジャーかもしれない。つーか、なんの計画性もないだけなんだが。まぁ計画性があれば木浦から内蔵山に来たりはしないのだが。
案内所を出るとすぐ一柱門というのがある。内蔵寺の入口にあたる。ここをまっすぐ行くと内蔵寺を通りいろんな登山道につながる。西来峰は門をくぐらずすぐ右側を進む。最初は緩やかな上り道で、紅葉を見ながら歩いていく余裕があるが、中盤を過ぎると徐々に道も悪くなり、傾斜もきつくなってくる。途中で少し休みながら行くが、実は西来峰までは1時間のコースなので、それほどつらいものでもなかったりする。つらいのは不健康な生活のせいなのだなぁ、などと思いながらも別に生活を改善する気もないのだが。
■左:一柱門 ■右:緑から赤へのグラデーションがきれい
そういえば巨文島で山に登ったときもかなりのハイペースで登った気がするが、今回もハイペースで、途中で登山客を何人も追い越していった。時間は充分にあるはずなのに何を急いでいたのだろうか。せっかちな性格なのかもしれない。おかげで1時間もしないで頂上にたどりついた。朝イチで登ってきたのに、すでに先客が何チームかあって、てっぺんの岩の上でくつろいでいる。オレも岩場によじのぼり7年ぶりの絶景を眺めてみる。まだ山は青い。7年前に来たときはほんとに辺り一面が赤と黄色に染まっていたんだがなぁ。
先客や後から来た登山客は西来峰からさらに尾根伝いに進んでいく。案内所でもらった地図にも、西来峰コースは6.6キロで3時間半のコースと書かれている。西来峰だけ登って降りていくのは多分邪道なのだろう。そういえば登ってくるときに、すれちがった人はほとんどいなかった。
いいのだ。邪道でも。オレは西来峰に来るのが目的だったのだ。登山を楽しみにきたわけではないのだ。
■左上:頂上から碧蓮庵を見下ろす ■右上:頂上のとなりの岩場
■左下:頂上からの眺め ■右下:山頂から井邑市内を眺める
というわけでとっととふもとに向かう。登りは40分だったが下りは30分だった。1時間コースなのにほんとせっかちだな。途中で碧蓮庵という寺(?)があるのでちょっと寄り道していく。境内には湧き水があったので口を潤し、ついでに手を洗っておく。ここから入口の一柱門までは10分ほどの距離。この辺りがいちばん紅葉も見ごろだった。ふと視界を何かが横切ったので目を向けると、なんとリスが歩いている。こんな近くで野生のリスを見るのは初めてだ。そーっとカメラを取り出して何枚か撮るとリスはどこかに消えていった。
■左:碧蓮庵 ■右:野生のリス
さて、どうにかふもとにたどりついた。ふもとには売店もあるので、冷たい飲み物でも飲みたいところ。冷たい飲み物と言えば、ビールしかあるまい。近くの売店で2500ウォンの缶ビール(ソウル市内のコンビニでは1500ウォンです)をなんの疑問もなく購入し、ベンチに座って紅葉を眺めながら飲み干す。考えてみりゃまだ昼前だ。しかもオレにとっては週末だが、世間一般では金曜日は平日なのだ。平日の昼間っからビール飲んでほろ酔い気分とはオレもいい身分になったものよ。
■右下:いなかの観光地っぽい食堂街
といっていつまでもここでぐずぐずしていても仕方がない。早く次の目的地に向かわねばなるまい。20分ほど歩いて登山道入口まで戻る。ここからさらに先に行くと食堂や旅館が軒を連ねるちょっとした繁華街に出る。食堂は全州ビビンバの店が多い。ちょっとそそられるところだが、これから全州に向かおうというときビビンバを食べるわけにはいかない。それより列車の時間も気になるしここでのんびり食事をとるよりは、早めに駅に向かうほうが得策だろう。案内所に入って駅までに行き方を聞こう。案内所に入るとおねいさんが「内蔵山にいらしたんですか?」と声をかけてくる。「えぇ、もう登ってきました。ところで全州に行きたいのですが……」「?ここが井州ですが?井州というのは井邑の昔の名前でして……」「いえ、井州ではなく、全州です」「あ、全州ですか」。先に書いた通り、韓国人でも紛らわしいから名前を変えたという逸話があるくらいだが、オレも発音に気を付けたつもりでも全然通じてない。精神的なダメージを受けつつ、バス乗り場の場所を聞き出し、失意のままバスに乗り込む。バスは12時20分に出発し、30分ほどで井邑駅についた。