木浦・内蔵山・群山編 後編
ここから全州に向かうのに直通列車はなく、途中の益山で乗り換える必要がある。次の列車は13時12分のセマウル号か、13時29分発のムグンファ号。ところでこの旅行の目的は確か、韓国の鉄道全線に乗るというものだったはず。益山からは群山線というローカル線が出ている。1日7本しかないので、益山を通るついでに乗っておきたいところ。ということで、セマウル号に乗って益山に向かう。ちなみに井邑からはセマウル号でたった2駅、27分の行程。8300ウォンという運賃は決して安くはないのだけど、時間を考えると背に腹は代えられない。昼時だというのに、切符を買ったりしているうちに時間がなくなってきたので益山までお昼はおあずけ。
■左:30分だけセマウル号を利用 ■右:益山駅とダイヤの塔
13時28分に益山到着。次の群山線は14時20分発。片道30分の短い路線なので群山まで行って帰ってくればいいだろう。行列の窓口で群山までの切符を買う。ローカル線なのでセマウルとかムグンファのような優等列車はなく、統一号という普通列車しかない。座席指定もない。無事に切符を手に入れ駅前をほっつき歩く。駅前広場にはダイヤモンドのモニュメントがある。あとで駅の案内所でパンフレットをもらったら、益山には貴金属の工業団地があるらしい。そうと知っていたらダイヤモンドでもみやげに買ってきたところなのだが(買うか!)。
またもたもたしてるうちにメシを食う時間がなくなってしまった。せめて駅にうどん屋でもあればいいのだが、それすらないんだよなぁ、韓国の駅は。文句を言ったところではじまらないが、出発15分前に改札が開いたので列車に乗り込む。セマウルとかムグンファが客車列車であるのに対し、最近のローカル線はディーゼルカーが導入されている。旅情という面ではイマイチな気もするが、たまにしか乗りに来ない旅行客の旅情など鉄道庁も知ったことではないだろうな。3両編成の列車に乗り込み、時刻表で折り返しの列車の時刻を確認する。14時51分に群山に到着すると、折り返しは17時35分と出ている。え? 3時間近くも何しろっていうのよ。いや、これじゃ全州につくのは夜だなぁ。できれば今日中に馬耳山に行きたかったのだが。
■左:群山線のディーゼルカー ■右:群山駅
地図を見ると群山から長項はバスで30分ほどのところにある。長項というのはソウルからの長項線の終点だ。ここからソウルに戻るというのも手だわな。時刻表を見るとほぼ1時間に1本の割合でソウル行きがある。全州のビビンバは次の機会ということにするか。さすがなりゆきまかせの旅行だ。出発時にはまるで考えもしなかったコースとなった。
のどかな田園地帯を抜け列車は終点の群山に到着した。あとで知ったのだが、映画「8月のクリスマス」の舞台は群山だそうだ。その映画は見てないんだけどね。
映画の舞台よりも、オレとしてはこの街に植民地時代の建物が多く残っていることに興味がある。例によって下調べもしてないのだが、現在の華僑学校が当時の建物だという情報を得ていた。問題は場所がわからないということ。そして群山駅にも周辺にも観光案内所らしきものは見当たらない。そもそも群山は観光都市ではないらしい。困ったときは警察に頼もう。駅前の派出所に聞いてみる。
「あの、観光案内所ってないですか?」「案内所?ないですねぇ。どちらに行かれるんですか?」「華僑学校ってありますよね、その辺りの植民地時代の建物なんかを見たいんですが」「ん〜、あの辺りにはもうないんですけどねぇ……。とりあえず華僑学校まで案内しますから乗って下さい」。警官が指さしたのはまごうことなきパトカーそのものであった。パトロールついでに連れてってくれるとでも言うのだろうか? 若い警官とその先輩の警官が前に乗り、オレは後に座る。オレの生涯でパトカーに乗るのは初めて。
「どこから来たんですか?」「日本からです」「なるほどねぇ。確かに群山には日本家屋が多く残ってたんですがねぇ、最近は少なくなりましたよ」などと話しているうちに華僑学校に到着。「実はね、3年前だったかな、火事で焼けちゃいましてね、今のは新しく建て直した校舎なんですよ」。華僑学校は植民地当時の遊廓の建物だった。火事になっていたとはさすがに知らなかった。目的のものがないのにこんなところで車を降ろされてもオレは困るな、などと思っていたら車はそのまま進み、路地を走り抜けて停まった。警官に促されるままに降りると、「この辺はまだ日本式の家屋が残ってますね。人もまだ住んでますし。ただやっぱり古い建物で、木造だということもあって最近は減ってますね。再開発でアパートが建ったりもしますしね」。目の前には確かに日本風の建物がいくつか残っている。植民地時代から建っているということは、少なく見積もっても築後60年は経っている。ソウルに残るソウル駅とか韓国銀行の建物は石造なだけに造りも強固だが、木造家屋では老朽化も激しくあと数年もすればほとんど消え去ってしまうかもしれない。
「写真撮っていいですか?」と警官に聞くと「どうぞどうぞ、好きなだけ撮って下さい」と勧められる。本来は居住者に聞くべき筋合いなのだが、まぁ警官がいるのだからトラブルになることはないだろう。道行く人は警官に案内されてカメラを構えるオレを怪訝なまなざしで見ているが、まぁいいのだ。
■左:中から鈴木さんが出てきても驚かない ■右:中から山本さんが出てきても驚かない
「さぁ乗って下さい、次に行きましょう」。このパトカーは決してパトロールついでにオレを案内してくれてるわけではなく、オレを案内するついでにパトロールをしているようだ。いくつかの物件を案内してくれたが、こんなことをわかっていれば下調べをきっちりしてくるべきだった。思いつくままに旅するというのも一長一短があるなぁ。
最後に連れてこられたのは、当時銀行として使われていたという洋館。その後最近まではナイトクラブとして使われていたらしく、看板が残っている。「ここも数年前に火事になっちゃいましてね、その後は放置されてる状態です。銀行だったので金庫とかあるでしょう、建物の造りも強固なようですよ」。これでだいたいの見どころは見たようだ。「私らが子どものころはもっといっぱいあったんですがね、今は見てきた所くらいしか残ってないですね」「そうですか、また次に来るときはしっかり下調べして来ます」「そうですね、研究がまとまったらぜひ教えて下さい。私ら地元の人でもなんでも知ってるわけではないですからね」。
■左:元銀行の建物 ■右:案内してくれたパトカー
しばしの雑談ののち、「さて、次はどこに行きますか? 私らは時間は大丈夫なので、管轄内でしたらどこでもお連れしますが」といううれしい申し出。ほんとは日本家屋を探してじっくりと街歩きをしたいところなのだが、それは次回下調べをしてからにしよう。ということで長項へ行くことにする。「それではバスターミナルまでお願いできますか?」「バスというと、どちらへ?」「長項から列車に乗ってソウルに戻ります」「長項ならバスじゃなくて船で行くといいですよ。この対岸が長項ですから、バスで行くよりも近いです」。銀行の建物の裏手は海になっていて、その向こうにたしかに街並みが見える。あれが長項らしい。船があるとは知らなかった。さすが地元の人はなんでも知っている。「それでは船乗り場までお願いします」。海沿いを走り5分ほどで乗り場についた。警官は中に入ると時間を確認し、「あと20分ほどで次のが来ます。気を付けてお帰り下さい」とどこまでも親切にしてくれる。巨文島といい群山といい、田舎の警官はとても親切だ。どうも警察にはいいイメージがないのだが、そういうイメージは完全に覆された。
若い警官とその先輩の警官に丁重に礼を述べ、パトカーがみえなくなるまで頭を下げて見送った。こういう触れ合いがあると、その街に対するイメージもよくなるな。また群山に来たくなった。
■左:長項までの渡し舟 ■右:さらば群山
船は1時間に1本の割合で出ている。長項まではたった1000ウォン。地元の足となっているのだろう。自転車は2000ウォン、バイクは3000ウォンで載せられるという。対岸までは15分ほど。バスは30分かかるということなので、船のほうが早くて便利だ。外のデッキに座り風を受けながら長項を目指す。ほどなく長項の船着き場に到着。タクシーが何台も停まってたので「長項駅は遠いの?」と聞くと「歩くには遠いかもね」とのお答え。「んじゃタクシーなら何分?」「あっという間さ」。乗るべきか、歩くべきか迷ったが、道順を聞くと「そこをまっすぐ行けばいい」とのことで、あるいて10分ほどというので歩いていく。目指す長項駅はすぐそこだった。現在16時を少しまわったところ。次のソウル行きは17時発。チケットを確保して駅周辺をうろつくが、タバンと旅館しかない。木浦でキムチチゲを食べて以来なにも食べていないので、食事をしたかったのだけど食堂らしきものが見当たらない。いや、あるんだけど、なんか入りにくい雰囲気でちょっとやだ。しかたなく近くののりまき屋でインスタントラーメンとのりまきを食べる。なんかわびしいけど仕方ない。それにしてもどうして駅にうどん屋がないんだろうか。1時間に1本しか列車がないから商売にはならないんだろうけど。駅でなにか食べたい場合には、売店でパンかお菓子を買うしかないというのが悲しい。
■左:長項駅 ■右:ムグンファ号(電源車)
待合室で改札が始まるのを待つ。出発15分前に改札開始。駅名標とか車両の写真を撮ってたら、駅員が「1枚撮りましょうか?」と声をかけてくる。旅行の時に自分の写真をとることはあまりないのだけど、せっかくだから撮ってもらう。礼を言って列車に乗り込むと、客はだれもいない。こいつはラッキーだと思ったのもつかの間、発車間際に幼稚園児の団体様がご登場。うるさいことこの上ない。先生が手を引いて順番にトイレを言行ったり来たり。歌を歌ったり騒いだりかまびすしい。しまいには先生まで「きょうは楽しかったですかぁ?」「はぁーい!」「お弁当はおいしかったかなぁ?」「はーい!」。そんなことは幼稚園に帰ってからやれ!! なにも列車に乗らんでもいいじゃないか。バスでも貸しきれよ。なんかもう旅行の気分が台なし。でも大川で降りるというので1時間の我慢だと自分に言い聞かせる。
長項線は以前、ソウルから大川まで乗ったことがある。大川には海水浴場があって、在住日本人連中と遊びに行ったのだ。そのときはシーズン真っ盛りで、列車も席はなくデッキにうずくまって行ったっけ。などと思い出してるうちに大川到着。ガキどもは降りる準備をしているのだが、そこで恐るべき光景を目の当たりにした。なんと、ホームには別の幼稚園の一団が。まさかこの列車に乗るのか? 心配は的中した。こうるさい一団は我が車両に乗ってきたのだ。ついでにオレの隣の席にも客が来た。ソウルに向かうというおばさん。オレはもう気分が悪いので窓の方を向いて一切のコミュニケーションを断つ構え。しばらくしておばさんが話しかけてきた。ものすごい気分悪げに「あぁん?」と返事すると、連れの友だちと席を変わってほしいとのこと。2人でチケットを買ったのだが席がバラバラになってしまったのだとか。前の車両にいるので代わってくれという。別に断る理由もないし、うるさいガキに悩まされるよりかはいいかと安請け合いしてしまったが、代わった席は通路側、しかも車両の一番前。すなわち通路ドアのすぐ横の席。寝てても人の往来が絶えず気になって眠れない。決めた。席を代わってほしいという話には安易に乗るまい。隣の席のおばさんは腰が痛いといって体を傾けて座っている。ムグンファ号の座席はふざけたことに中間のひじかけがない。うかうかしているとオレの領土までとられかねない。なんだか疲れる汽車旅だなぁ。などと考えつつ長項から3時間半でソウルに到着。高速鉄道の工事の関係で、降車ホームはまだ工事中の高速鉄道の駅舎に誘導される。天井が高くてなかなかかっこいい。2004年4月の開業の際はどんな駅になってるのだろうか。
こんな感じで、木浦から内蔵山、群山、長項をめぐる旅は終わったのだった。前回の旅行で課題となっていた地方の早朝到着については、そのまま別の地方に移動することで時間活用できることがわかった。今後も麗水行きや木浦行きの寝台車を利用して、別の地方に行くこともあるかもしれない。すべては流れるままに、だ。
| ソウル→木浦(寝台上段) |
47,000ウォン
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| 木浦→井邑(ムグンファ) |
6,200ウォン
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| 井邑→内蔵山(タクシー) |
15,000ウォン
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| ロープウェー(往復) |
3,600ウォン
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| 井邑→益山(セマウル) |
8,300ウォン
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| 益山→群山(トンイル) |
1,100ウォン
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| 群山→長項(渡し舟) |
1,000ウォン
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| 長項→ソウル(ムグンファ) |
12,400ウォン
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| 食費など |
10,000ウォン
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| 合計 | 104,600ウォン |