江陵・束草編 後編

統一展望台に向かうためにはとにかく北を目指せばいいだろうと判断した。途中の交番で尋ねてみると、大津というところまで行けばいいようだ。市外バスターミナルの窓口のねーちゃんに大津までの行き方を尋ねると、「次は11時57分発です」とめんどくさそうに答える。チケットはここで買うのか、バスで払うのか、いくらなのか、尋ねようとしたら携帯電話がかかってきてそちらのほうに夢中。韓国人は業務時間中でもプライベートな電話にでるのは日常茶飯だが、窓口業務の担当者がこれでは話にならない。やる気がないならやめちまえ。バスの出発まで30分ある。でもねーちゃんの態度にむかついたのでそのまま外に出て、一般の路線バスに乗る。タワーの下の案内所では1番のバスに乗れと言っていた。乗ればどうにでもなるだろう。近くのバス停で待っているとバスはすぐに来た。
運転手に「大津まで」と告げると「3430ウォン」とのこと。田舎のバスは運賃がなぜか10ウォン刻みだ。
バスは海沿いの道をひた走る。ただ海岸沿いには鉄条網が設置してあるのが北朝鮮との境界が近いことを思わせる。うつらうつらと揺られること1時間半。バスは大津の町に入ったようだ。運転手に展望台への行き方を尋ねると、終点まで乗っていけとのこと。終点で降りると「ここをまっすぐ歩いて2〜3分で入口があるから」と教えてくれた。言われた通りにまっすぐ行くが、5分過ぎても目指す入口は見つからない。

■左:鉄条網と海 ■右:階段の上が展望台


10分が過ぎて不安になったころにやっと「出入申告所」があらわれた。窓口で「申告書」(韓国では役所での申請も警察への通報も、申し込みもなにもかも「申告」というのだ)をもらい、名前と住所と住民登録番号を記入して入場料を支払う。窓口の女性は「13時のシャトルバスに乗って下さい」という。今は12時40分なので、あと20分ほど。みやげ物屋などをひやかしながら時間を潰す。5分前に駐車場に向かうが、それらしきバスはない。近くに統一展望台の名前が入ったワゴン車があったので、運転手に「これがシャトルバスですか?」と聞くとそうだという。なにがシャトルバスだか。乗り込んだのはオレともう1人だけ。出発した「バス」は北に向かって走り、途中で検問所を抜け10分ほどで展望台に着いた。運転手は「2時10分までに戻れ」という。展望台での滞在時間は1時間しかない計算。

階段を上って展示館に入ると、北朝鮮の生活用品などが展示してある。鰲頭山の展望台でも見たことあるものばかりで、とりたてて見るべきものはない。展示館の上に上がりついに展望台に。目の前に広がるのは北朝鮮の山々。右側には海が広がり、左側には山が見える。昔は北側にカメラを向けることは絶対禁止で、10年以上前に日本のテレビでやっていたルポでも、カメラは北側を写すことができず、北側の景色を伝えるレポーターの横顔を写していたのが印象的だった。南北の対立関係が緩和された今では写真撮影も解禁されていて、「ここがベストポイントです」と看板も立っており、記念写真を撮ってくれるおばちゃんも待機している。オレも遠慮なく写真を撮ったが、カメラを左側に向けたとき、後のおばちゃんから「そっち側は写しちゃダメです」と注意された。左側の山々の手前側には韓国軍の哨所があるため、厳密には軍事機密に属する部分なのであろう。だからといってフイルム没収みたいなことまではされないので、形式的なものなのかもしれない。

■展望台からの風景


取り立てて見るものもなく、さほどの感動もないまま展望台からおりる。帰りの「バス」までまだ40分もある。そういえば昨日の夜に買ったおにぎりが残っていたので、ベンチに座って昼食とする。敷地内にはみやげ物屋と食堂もあるが、めぼしいものはない。入口近くの売店でソフトクリームを売っていたのでそれを買って「バス」乗り場の近くのベンチでボーッとしながら食べてみた。この後の計画を考えていたら、「展望台はどうでしたか?」と声をかけらた。誰かと思ったら、来るときの「バス」で一緒だった大学生だった。就職を控え今後は旅行する機会も少ないだろうからということで国内をいろいろまわっているのだそうだ。彼が言うには「束草まで来たら雪岳山に行かないと」とのことだ。韓国の観光地は山しかないのかいな。登山が嫌いなわけではないが、それほど好きでもない。前回の内蔵山に登って以来、歩きすぎると股関節が痛むので、できれば山登りは避けたいのだ。そんな話をしつつ、束草市内まで一緒に行くことにした。この彼はきょうの朝にエキスポタワーに行っていたという。そういえば、一人で来ている学生風が展望台にいたような記憶がある。オレは5分ほどで降りてしまったので彼は気付かなかったらしい。

■左:信念の鳥人(って書いてあった) ■右:大津バスターミナル(笑)


時間になったので「バス」に乗り込む。本来は出入申告所までのはずだが、サービスで束草行きのバスターミナルまで送ってくれた。束草行きのバスも待機しており、すぐに乗り込んだ。大津の街はなんとなく、つげ義春の漫画にでてくるような街並みだ。通りの向こうから蒸気機関車でもでてきそう。あるいは彼の作品に出てきた房総半島の海の街。そういえばここも海辺の街だった。なんてことを考えながらうつらうつらと眠ってしまう。束草までの途中には、金日成の別荘や李承晩の別荘がある花津浦などを通る。途中下車して見ていってもいいのだけど、寝てしまったのでそのまま通過。1時間半後に束草市内まで戻ってきた。市外バスターミナルでバスを降り、大学生と別れる。

さて、この後の予定だ。今回の旅行ではうっかり時刻表を持ってくるのを忘れてしまったので列車の時間がわからない。今日中にソウルに戻りたければ江陵発16時に乗ればいいし、あるいは夜行なら22時にあったのを覚えている。だがしかし、また8時間も揺られるのはつらい。ついでに、ここはまだ束草なわけで、バスに揺られて江陵に行くことを考えると、今回の旅行は移動ばかりとなりそう。ところで急にひらめいたのだが、近くに空港があるのだよ。8時間もかけて列車に揺られるくらいなら、少々奮発して飛行機でソウルに帰ってもいいのではないか。19時発のソウル行きというのがあったはずだ。観光案内所でもらった地図に連絡先が書いてあったので大韓航空に電話してみる。するとアナウンスが流れるので、それに沿ってボタン操作をするのだが、いろんなところにまわされるうちに声がほとんど聞こえなくなってきた。不便な予約センターだな。ならば市内にある大韓航空のカウンターを探すか。大きな街ではないのでメインストリートを歩けばあるだろう。なくても旅行会社でもあればしめたもの。

市外バスターミナルからとぼとぼと市内に向けて歩き始めるものの、大韓航空はおろか、旅行会社すら見つからない。この街はどうなっているんだ。30分歩いても見つからないので、だったら直接空港に向かおうという無謀な賭けに出ることにした。空港があるのは束草と江陵の中間にある襄陽というところ。こんな田舎に空港があること自体驚きだが(ついでに国際空港だというのだからさらに驚き)、田舎なので便数も少ないし、機材も小さいに違いない。チケットが取れるかどうかもわからないまま田舎の空港に行くのは不安なのだが、最悪の場合にはバスでソウルに戻ればいいだけの話で、ダメモトで襄陽に向かうことにした。ちなみに飛行機で帰ろうとしたのは、単に飛行機が好きだからというのも理由のひとつである。

市外バスターミナルから高速バスに乗って襄陽に向かってもいいのだが、昼間の窓口のねーちゃんの対応が不快だったので、普通の路線バスでいくことにした。幸いにもバスは頻繁運転なので1時間に数本の高速バスより便利。バス停で待っていると5分もしないうちにバスが来た。運転手に「襄陽まで」と告げると「1400ウォン」との答え。1時間ほどで襄陽市内に到着する。オレはまたもや眠りこけてしまい、どこで降りていいかもわからぬまま襄陽市内に入ってしまったのであわてて降りる。さて、ここから空港に向かわなくてはいけないのだが、空港を抱える街ならば大韓航空の窓口くらいあるだろう。メインストリートを歩くがそれらしきものはない。しかし旅行会社を発見した。喜び勇んで中に入ると、従業員2人しかいない小さな旅行会社。「あの、航空券買えます?」と聞くと、社長らしき男性が「買えるけど、どこまで?」「ソウルまで、今日の便なんですが」。男性はすぐに帰り支度をしていた女性を呼んで、「急いで!」と指示する。時計を見るとあと5分で17時というところ。さては17時過ぎると予約できなくなるのかな? まぁ無事に18時50分発の便で予約を入れることができ、予約番号の控えを受け取った。航空券は5万7500ウォン。列車の3倍の料金だが、ソウルから木浦までの寝台車と変わらない値段。列車の8分の1の時間でソウルまで行けるのなら、決して高くない料金だろう。代金を払うついでに空港までの行き方を聞くと、シャトルバスがあるらしいのだが、飛行機の時間に合わせて走っているので1時間くらい待たないと行けないらしい。タクシーで行くと3000ウォンくらいだというので、タクシーで空港に向かうことにする。

■左:襄陽国際空港 ■右:飛行機


タクシーに乗って15分ほどで空港に到着。さみしいくらい人のいない空港。しかも国際空港。こんな国際空港を見るのは初めてかもしれない。大韓航空のカウンターで搭乗券を受け取りしばし待機。出発まで1時間半もある。空港内を探索するが、とりたてて見るべきものもなく、ベンチに座ってテレビで大相撲中継をやっていたのでなんとなく眺めて時間を潰す。小腹が空いたので人のいない軽食屋でハンバーガーを食べる。カウンターに座っておばちゃんの話を聞くと、ここのハンバーガーは手作りパンを使っているそうだ。なるほど、確かになかなかウマイ。ついでにおばちゃんに、「この空港は1日何便就航してるの?」と尋ねると、指を3本出してきた。3便か。「少ねぇなぁ」などと言うと気を悪くするかもしれないので「あぁそうですか」と無難に答えておく。小さな空港で手作りパン。ハンバーガーだけでなく、クロワッサンとかいろいろと品ぞろえは豊富。しかしこの空港で採算はとれるのか。いらぬお世話だが、そこそこおいしいパンだけに残念な気もする。

本を読みながら時間が過ぎるのを待っていると、ようやく搭乗開始の案内。搭乗口にたどりつくまでには身分証明の提示と荷物検査という関門がある。韓国人は住民登録証を見せると係官がいちいちコンピュータに入力して確認を取っているが、オレが外国人登録証を見せると「あっち行け」とでも言いたげにおっぱらわれる。その後は荷物検査。かばんをX線検査に通し、オレも金属探知器を抜けると「ピーピーピー」と音が鳴る。どうもオレは金属探知器と相性が悪いらしい。係官に「こっちこっち」と招き寄せられ、金属探知器で隅々まで検査。最後に係官はオレの帽子に目をやり、「帽子とって」と言う。忘れていたが、オレはいま坊主頭だったのだ。帽子を取った瞬間、見てはいけないものを見たような目つきで係官は「OK、行け」とおっぱらう。どこの国でもそうなのだが、おっぱらうような仕草はむかつくからやめれ。

ようやく搭乗口に到達。本日の機材は「フォッカーF100」という小型機。これまで乗ったことのない機材なのでちょっとうれしかったが、コクピットの窓周りがアルミテープで補強してあって、乗る前からかなり不安。台所用のアルミテープで補強してある飛行機。しかも大韓航空。どうよ?
座席は窓側だったので景色も楽しめるが、もうすでに日は暮れているのでそれほど面白くはない。離陸してすぐ飲み物のサービスが開始される。雑誌を読みながらオレンジジュースを飲み干すとすぐに着陸準備態勢。8時間の道のりがたった50分でひとっ飛びなのだから恐れ入る。列車が8時間かかるのは、無駄に遠回りなルートを使っているためで、バスに乗ったって4時間もあれば着く距離なのだ。ただバスの場合は渋滞などもあるので時間がはっきりしない。鉄道を使うか、バスを使うか、それぞれに一長一短がある。まぁ経済的に余裕があれば飛行機がいちばん便利だとは思うが。
19時40分に無事金浦空港に到着。タラップを降りバスに乗ってターミナルへ。空港から自宅までは地下鉄に乗って40分。無事に今回の旅も終わった。
飛行機までのって奮発したが、今回の旅行費用は10万ウォンと安上がりなものとなった。まともに食事してないせいもあるのだけれど。束草の街はなかなか雰囲気もよかったので、いずれまたじっくりと訪れたい。できればそのときは刺身でも食べたいものだ。

主な出費

清涼里→江陵
17,100ウォン
江陵→束草
5,300ウォン
エキスポタワー
1,500ウォン
束草→大津(往復)
6,860ウォン
統一展望台
2,000ウォン
束草→襄陽
1,400ウォン
襄陽→金浦
57,500ウォン
食費・タクシー代など
10,000ウォン
合計 101,660ウォン

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