太白・旌善編 (2004.2.12)
鉄道全線走破をするうえでネックとなっていたのが旌善線というローカル線。なんか前回の都羅山も似たような書き出しだった気がするが、ネックは各地に存在するのである。さて、この旌善線というのは、江原道の山奥にある路線で1日に3本しか走らない。ネックなのはその本数もさることながら、水害による鉄橋の流失などにより路線の半分が運休状態にあるということ。運行している半分だけ乗ってもいいのだが、それでは運行再開したときにまた来なくてはいけなく二度手間になる。運休はもう2年も経っており、廃止のウワサも出ている。路線そのものが全線廃止になってしまえば、全線走破のネックは消滅することになるが、かといって運行中の部分すら乗らずに廃止になってしまうのももったいない。どうしたものかと考えあぐねていたところで、なんと復旧のお知らせが。2月10日に全線で運行を再開するという。ならばそれに合わせて乗りに行くとしよう。
そうと決まればスケジュールを決めないといけない。いつもは行きのチケットだけ手配して帰りはテキトーというのがオレのスタイルだが、今回は1日3本の路線が相手だけに、もう少しきっちりと計画を立てることにする。旌善線の始発となる甑山からの発車時刻は6時45分、14時15分、18時00分の3本。朝の列車はソウルを朝イチに出発しても乗れない。夕方の列車は日が落ちてしまうので不向きで、しかも折り返しの列車に乗っても甑山からソウルに戻れない。結局乗れるのは昼間の1本だけという悪条件。それでも清涼里を10時に出る列車に乗れば日帰りは可能なのが救い。ただ、それでは旌善線に乗るだけで終わってしまうので避けたい。ということで、木曜日の23時30分に清涼里を出発する夜行列車に乗ることにし、スケジュールに沿ってチケットの手配を終えた。
■左:清涼里駅ホームにて ■右:東海駅
出発当日。駅のマクドナルドでさびしく食事をしたのち江陵行きの列車に乗り込む。江陵行きの列車の多くが太白線を経由していくが、この列車は経由しないため、甑山は通らない。通ったとしても夜中の3時とか4時に着くことになるわけで、今回は東海まで向かい、太白まで折り返すというルートにした。
出発から7時間。東海到着は6時24分で太白に向かう列車は7時42分発。1時間以上あるのでどこかで食事でもしようかと考えながら駅を出ると、さっそくタクシー運転手が登場する。「どこ行くの?」「いや、わからん。何も考えてない」「じゃ日の出でも見に行くといい。海岸まで7000ウォンだけどどう?」
東海市のキャッチフレーズは「日の出の故郷」。日の出は東海市だけでなく、世界のどこにでもあるものだが、東海岸沿いにあるという立地から海から上る太陽を拝めるというのがセールスポイントだ。麗水でも日の出を拝んだが、東海でも日の出を拝むことになりそうだ。
「7時42分の列車に乗るからそれまでに戻れる?」「海岸まで10分で、7時10分には日も出るから充分に行ってこれるよ」「んじゃ行ってみよう」
こうしてまんまとタクシーに乗せられた。「あのさ、日の出見たあと駅に戻るんだけどタクシーはいっぱい来るの?」「いや、この時間だとあんまりないねぇ」「それじゃ困るなぁ。帰りも乗せてくれない?」「そしたら時間が来たら迎えに来るよ」「助かった。往復でいくら?」
料金を聞いたら運転手が考え込んでしまった。「お客さんが運転手なら、いくらもらえたら嬉しいかねぇ?」。ぼったくろうとしてるのか、謙虚なのか、よくわからない。
片道7000ウォンの道のりで、日の出の間タクシーが近くで待機するとなると、麗水での例ではメーターまわりっぱなし。単純往復なら1万4000ウォンだから、安くて1万5000ウォン、高ければ2万ウォンは覚悟しないといけないようだ。
考え込んだ揚げ句に運転手は、「それじゃ行きは7000ウォンで、帰りは1000ウォン割引で6000ウォンでいいかな?」。予想より安くすんだ。
道すがら運転手にいろいろ聞いてみると、東海に外国人観光客はほとんど来ないが、ロシアの船がいっぱいカニを積んで来るそう。人口は10万5000人、市制施行から20年経つが人口の変動はほとんどない。産業というほどの産業はなくて、工業では火力発電所とセメント工場があるくらい。運転手が最後に言ったひとことに笑った。「きょうはさ、あんまり天気よくないから、日の出は見られないかもねぇ」。先に言えよ!(怒)
海沿いの展望台に着くと、先客も何人かいた。運転手がいうように天気はそれほどよくなく、もやがかかっている状態。7時10分には明るくなったが、太陽は雲の向こうなのか全然見えない。残念ながら東海名物の日の出は見られなかった。
タクシーで駅に戻りながら、運転手に「日の出以外の東海名物」はなにかを聞くと、お寺と洞窟の名前を教えてくれた。次回ここに来ることがあったら訪ねてみることにしよう。
■左:日の出は拝めず……。 ■右:東海駅
駅に着いたのは出発10分前。寒さしのぎにコーヒーを飲んでいたら改札のアナウンスがありホームに向かう。7時42分発のムグンファ号は客もほとんど乗っていない。太白までの道のりには韓国唯一のスイッチバックがあるほか、山岳路線らしい険しい行程が続く。1時間半ほど揺られ太白に到着した。
■左:太白駅に停車中の統一号 ■右:太白駅
太白市は炭坑で栄えた石炭の街。すでに斜陽産業となっている石炭だけに、太白市も寂れた風景が広がっているのではないかと思ったが、意外にも結構栄えている。
ここでの目的は石炭博物館に行くこと。太白に着いたのが9時11分で、出発は13時01分の列車なので4時間近く時間がある。ほかに見どころがあればそこに行ってみるつもりだが、今回もなにも下調べはしていない。駅を出てすぐ観光案内所に行く。
「石炭博物館に行きたいのですが……」と切りだすと、「どちらの国から来ましたか?」と聞き返される。「日本人ですが」と答えると、案内のおばさんは考え考えながら日本語で案内してくれる。毎度思うのだが、韓国語で聞いているのになぜ日本語で案内しようとするのかがわからない。案内所レベルの日本語はオレの韓国語レベルには及ばないレベルであることが多い。ここもそう。日本人相手だからといってカタコトの日本語で対応すべきではないと思うのだが。親切心かもしれないが、韓国語で意志疎通ができる相手には韓国語で話すべきだと思う。オレも彼らの日本語の話し相手になってあげる気はさらさらないのだから。
まぁいい。石炭博物館は駅前のバスターミナルからバスに乗って行くという。ターミナルに向かって歩き始めると後から案内のおばさんが追いかけてきて、「これを持っていきなさい」と日本語版の太白市のパンフレットをくれた。博物館以外にも行けるところがあれば行こうと思っていたので好都合だが、紹介されている観光スポットへのアクセス方法が書いていないという片手落ちのパンフレットだった。太白市は石炭の斜陽化にあわせ観光産業の育成に力を入れているというが、アクセス方法が書いていないパンフレットを出しているようではまだまだだ。
駅前のバスターミナルはかなり薄汚れた建物で、入口が倉庫のドアみたいな鉄扉。中の様子が見えないので裏口なのかと思ったら正門らしい。なかなか変わった趣の建物だということにしておく。バスはそこそこに本数がある。9時35分発のバスに乗って20分ほど揺られると博物館に着く。地下1階地上3階の意外に大きく立派な建物に驚く。中に入ると石炭の歴史と石炭産業の歴史などの資料が展示されている。展示の最後は体験坑道で、エレベーターで地下に降りていく。エレベーターのドアが閉まると真っ暗になり、壁に内蔵された照明の点滅効果で地下深くまで降りていくような錯覚を与える。坑道内のようすを再現した展示を見終えると屋外展示場にでる。オレとしては屋内展示よりも屋外展示のトロッコなんかに関心がある。坑道に作業員を運ぶトロッコに掘りだした石炭を運ぶ鉱車、石炭を運ぶロープウェイなど、乗り物好きにはたまらないほど充実した展示物に涙。
■左:石炭博物館全景 ■右:生活風景
■左:バッテリーカー ■右:体験坑道入口「パパ!きょうも無事に……」
さて、見るものは見た。帰りのバスは10時40分。その次は11時15分。現在時分は10時40分。あぁ、無駄な待ち時間が生じてしまった。博物館のあとは洞窟に行きたかったのだが、1時までに駅に戻ることを考えると11時15分のバスでは遅いかもしれない。とはいえタクシーも来ないようなところなので仕方なく博物館前の広場でやっていたしょぼい雪祭りを見たりしながら時間を潰す。
バスは定刻にやってきた。駅前で降り、次の目的地の竜淵洞窟に向かうことにする。ここからバスでも行けるのだが、時間がないのでタクシーで行くことにする。たまたまターミナル前で客待ちのタクシーがいたので、「洞窟まで何分?」と聞くと「10分もあれば行くよ」とのこと。今は11時30分。「1時間もあれば見学して戻ってこれる?」「まぁ充分かな」ということでタクシーに乗り込み洞窟に向かう。
洞窟入口の駐車場には停まっている車もない。タクシーは降り際に「帰りのバス本数少ないから、必要なら呼んで」と名刺をくれた。チケットを買うと男性がでてきて「後の車に乗って下さい」と手招きする。チケット売り場から洞窟までは車で上がっていくらしい。普段は遊園地のアトラクションのような汽車型に連なった専用バスが運行されているらしいが、平日の昼間におとずれる観光客はいないのだろう。3分ほどで洞窟の入口に到着。管理所のおばさんにヘルメットを渡されいざ突入。最初ほうは通路も広く、ホールのようなところには噴水が設置され、幻想的というか、なんか洞窟のイメージぶち壊し。この噴水はライトアップされているのだが、センサーで動いているらしく、写真を撮ろうともたもたしてたら噴水も照明も消えてしまうという恐ろしいことに。だれもいない洞窟で1人残され真っ暗というのはかなり怖い。いくつかの噴水を越えていくと、だんだん通路が狭くなり、険しくなる。壁が通路の上までせり出している部分も多く、中腰で進んでいくしかないのだが、腰が痛くてたまらん。帰りの時間も気になりだし、狭い洞窟を駆け足で見てまわり、20分ほどでまた外に戻ってきた。下に降りるために管理所で車を頼む。降りた後タクシーを呼ぶ。寒い中で10分ほどでやってきた。「ずいぶん早く見てきたねぇ」と感心する運転手に「1時の列車なので時間がないんです」と答え太白駅までせかす。駅に着いたのは発車10分前。4時間の太白滞在はそれなりに充実していた。
■左:地下広場の噴水 ■右:鍾乳石
■左:手すりは腰の高さです ■右:洞窟入口