太白・旌善編 後編
さて、ここでようやく本日のメインとなる旌善線に向かう。太白から30分ほどで甑山に到着。山間の小さな駅で、駅前にはなにもない、というか駅は小高い丘の上にあるのか、駅前は街につながる階段がある。上から見たところ、ほんとに田舎の街という風情。旌善線の出発までは40分ほどあるが、すでにホームに列車が停まっているので、九切里までの切符を購入し列車に乗って発車を待つ。
■左:甑山駅 ■右:九切里方面乗り場。ついに来たよ。
■左:カラフルな客車 ■右:その車内
列車は機関車に電源車、客車の3両編成。客が乗れるのは1両の客車だけ。カラフルな色使いの客車は完全に観光客向けに改造されていて、内部も一部の席が外側を向いているなど、一般の列車とはまったく異なる趣。車体には旌善郡の名前が入っており、おそらく郡が全面的にバックアップしているのだろう。車内には名産品の展示ブースがあり、網棚には沿線の案内が掲出されている。沿線の中心地となる旌善は2日と7日には市が立ち、清涼里からの臨時列車も運転されているらしい(現在もあるのか不明)。また、旌善は「旌善アリラン」発祥の地としても有名だという。それがなんなのかよく知らないが。
列車の乗車率はいまいちだったが、ソウルからの下り列車が隣のホームに入ると、乗り継ぎ客が流れてきた。1両しかない客車は一杯になったが、それでも座席がすべて埋まるほどではない。乗り継ぎ客には地元の人のほか、ソウルなどから来たとおぼしき鉄道ファンも数人いた。韓国でも徐々に鉄道趣味が広まっているようだ。
列車は14時15分に発車。甑山を出発すると甑山の集落をぐるりとまわるように進行方向を180度変え、一路九切里をめざす。山間を走る列車の沿線はひなびた寒村といった趣で、なかなかいい感じ。
甑山から3つ目の旌善で乗客の半分が降りていった。ここから先がつい4日前に復旧したばかりの区間だ。1日3本しか走らない路線で、復旧したばかりということもあるのか、沿線のあちこちで農作業をしているおじさんおばさんも手を振ってくるのを見かけた。旌善線復旧は地元からの熱意も高かったことがうかがえる光景でもあった。途中の橋は新しく架け替えたことがわかったが、近くには路盤がはがれたままの道路も見え、水害のツメ跡がまだ残っている。水害は2002年と2003年の2回にわたってこの地域を襲った。復旧工事をしている最中に次の水害が起きてしまい、廃止のうわさも高かったが、こうして復活をとげたのは喜ばしいことである。単編成の列車は「ミニ列車」と呼ばれ観光客からの人気も高い。地元の足としてだけでなく、観光路線として今後も長く走り続けてもらいたいものだ。
15時20分に終点の九切里に到着。折り返しは15時36分なので、車掌も「折り返す人は時間までに戻ってきてくださいね」と案内する。乗り遅れると19時20分まで待つことになる。
駅は無人駅でひっそりとしているものの、復旧を歓迎する垂れ幕もかけられており、ここでも地元の人たちの歓迎ムードが伝わる。そういえば列車が到着したときにはどこかのテレビ局も撮影に来ていて、地元の老人たちが列車に乗る様子を撮影していた。
■左:九切里駅 ■右:漢字が違います
どうでもいいことだが、この駅の駅名標はすべてローマ字表記が異なっていた。駅舎には「kujol-ri」(oの上に^)、ホームには「KUJULRI」、ホームの柱には「Gujeol-ri」。それぞれの時代によって正書法が違うから致し方ないのだが、ホームの駅名標はいちばん新しいもので、それが間違った正書法で書かれているのだからどうしようもない。現在の正書法ではホームの柱のものが正解。ちなみに、列車に掲げられたサボでは九切里の漢字表記が「九絶里」となっていた。漢字の使い方がわからないのであれば無理して使うべきではないと思う。ここに限らず、観光地などにおける外国語および漢字表記はお粗末なものが多く、観光客を惑わせる原因になっている。どうにかならないものだろうか。
■左:駅名標 ■右:柱用駅名標
停車時間の15分は短いようでいて結構長い。あちこち撮影して列車に戻ってからも5分ほど時間が余ってしまった。
機関車を付け替えいよいよ出発。九切里駅は無人駅で切符を売っていないので、折り返しの切符は車掌から買うことになる。車掌は「代用乗車券(日本では車内補充券)」を持ち、乗客ひとりひとりに行き先を聞き、手書きで切符を作っていく。オレのところにもまわってきたので、甑山までの切符を買う。手書きの切符に魅かれたので、面倒をかけて申し訳ないが、「2枚下さい」と頼むと、車掌がびっくりして「お一人ですよね?2枚だと料金もその分いただきますが……」と言うので、「料金は払います。記念に欲しいのでお願いします」と頼んでみた。手間をかけるのは申し訳ないが、たった1200ウォンの切符でも増収につながり、ひいては旌善線の存続につながることを願いたいところ。
列車は旌善に到着した。到着すると同時に機関車が切り離されたので、なにごとかと思ったら、となりのホームに停まっている荷物車をつなぐらしい。前に向かっていった機関車はポイントを切り替えバックで隣のホームに進入し荷物車を連結すると、再度前進し、ポイントを切り替え客車に向かい後進。衝撃とともに客車と荷物車は無事に連結され、混合列車は一路甑山に向かう。集落をぐるりとまわり甑山には16時46分に到着。折り返しは18時00分となるが、甑山駅構内には通常の統一号用の客車が留置されており、おそらく朝と夕の列車は通常の客車が充当されているよう。観光客用の列車は昼間の列車用のようなので、次回はぜひ通常の客車で旅情を満喫したい。
■左:代用乗車券 ■右:甑山駅から見た風景。正面を旌善線が走る
これにてきょうのメインイベントは終わり、あとは清涼里に向かうだけ。乗り継ぎは20分ほどの待ち時間だったが、「清涼里行きは30分ほど遅れています」とのアナウンス。5分や10分の遅れは珍しくない韓国の鉄道だが、30分遅れとは穏やかでない。列車がいつ来るかもよくわからないので駅から離れるわけにもいかず、待合室でおとなしく待つしかない。17時05分発の列車は17時30分に到着した。機関車にトラブルがあったらしく、電気機関車は3重連となっている。途中の堤川で機関車を付け替えたりしながらも、終点の清涼里には定刻の5分遅れで到着しており、25分の遅れを取り返した。