堤川編 (2004.3.12)
統一号廃止の日が近づいているわけで、できるだけ多く乗っておきたいと考えていた。前回の春川に行くときにわざわざ統一号に乗っているのもそのためであったが、まだまだ乗っておきたい。春川に行った次の週もどこかに行こうかと考えていたのだが、運悪く大雪に見舞われたために結局どこにも行けなくなってしまった。統一号の廃止は3月18日。となると、オレに残された日は12、13日の2日間だけしかない。だとすれば、ここは統一号三昧の旅に出るべきであろう。鉄道に乗るだけの旅ではなく、観光もすることを心がけているが、今回ばかりは観光に時間を割くわけにはいかないのである。今回の目的は統一号に乗ることだけなのだ。
客車で運行される統一号は残り少ないとはいえ、まだ全国各地を走っている。清涼里から釜山市の釜田を結ぶ1221列車は12時間かけて走る最長鈍行列車で、乗り納めにはうってつけなのだが、これには以前乗っているし、なにより12時間列車に乗り続けるのは少々つらい。ということで、ソウルから韓国中部地方をまわり戻ってくるルートを設定した。チケットもしっかり窓側の席を予約し、準備は整った。
さて出発当日。1221列車には乗らないと行っておきながら、実際にはこの列車に乗ることにする。ただ、釜山まで行く気はさらさらなく、途中の堤川で降りる予定。
6時50分発の列車に乗るために眠い目をこすりつつ起床。堤川までは3時間20分の道のりで、車内販売はあるけれど、飲み物とお菓子くらいしかないので腹の足しにはなりそうにない。あらかじめ清涼里駅前のコンビニで食料を調達しておく。
切符を買ってホームに降りる。先頭の電気機関車は最新型で、しかも新しいCI導入にともない、従来の黄色と緑の塗りわけから、赤、青、白の新塗色となっている。機関車は新型だが、客車の方は年季が入っている。
■左:これで釜山まで行くのはつらい。 ■右:機関車は新塗色
この列車は座席指定ではないので、適当な場所に席を確保し出発を待つ。乗車率は結構高く、出発する時点で8割はあったようだ。2人がけの席を1人でのびのびと使いたいところだがそうもいかず、となりにも乗客がきてしまった。ガラガラに空いていれば、車内をうろうろしながら写真でも撮りたいところだが、適度な込みようではそうもいかず、おとなしく車窓風景に見入るしかない。
定刻に出発した列車は漢江沿いを走る。途中の楊平で多くが降りて車内は少しすいた。朝食代わりのサンドイッチを頬張っているとまもなく原州に到着。ここまでで2時間ちょっと。この先には山越えのためのループ線があって、鉄道好きにとっては中央線の名物になっているのだが、列車の心地よい揺れにつしかまどろんでしまい、気付いたらすでに通過したあとだった。そもそも、いつもならまだ寝てる時間なわけで、ボーッと車窓を見てると眠くなるのも道理だ。
いつもの起床時間をちょっと過ぎた10時11分に列車は無事堤川に到着。ここは中央線のほか、太白線、忠北線が分岐するターミナル駅でもある。ここで次の列車に乗り換えるのだが、目指す列車までは3時間ほど時間がある。中途半端な時間だが、どこか観光地でもあればしめたもの。統一号に乗るのが目的の旅とは言え、せっかくだから見ておけるものは見ておきたい。
■左:堤川駅到着 ■右:堤川駅
駅の観光案内所に行き地図をもらう。観光地図かと思ったら路地のすべてに名前が書かれた住宅地図を渡される。別にオレは知人をたずねて来たわけではないのだが。まぁいい、ついでに「3時間しか時間がないのですが、どこかおすすめのところはありますか?」と質問してみたところ、「3時間だと義林池くらいしか行けない」と言われる。まず義林池がなにかわからない。漢字を見れば池だとわかるけど、ハングルで書かれてしまうとそれが池かどうかは判別できない。「義林池ってなんですか?」「池です。堤川十景というのがあって、そのうちの第一景が義林池なのです」「堤川十景でほかに見られるところはないですか?」「ほかのスポットはここから遠いんですよ。3時間だと義林池くらいしか行けませんよ」
確かに、地図をみるといちばん近い。案内所によるとタクシーに乗っても3000〜4000ウォンくらいだという。逆に近すぎて時間を持て余すことにもなりそうなのだが、どうだろうか。
タクシーをつかまえて義林池に向かう。ついでに運転手に義林池以外のみどころを尋ねるが、やはりここからは遠いところばかりだという。「堤川じゃなくてさ、鳳陽あたりで降りればいろいろ見られるのに」と運転手はいう。鳳陽は堤川のひとつ手前の駅だが、観光目的じゃないのでそんなところで降りるわけにもいかないのだよ。
10分も走ったところで「ほら、あれが義林池だ」と降ろしてくれた。運転手にきいたら駅からの距離は4キロほどだという。「だったら帰りは歩けますね?」と問うと、歩けるという。駅からの道はまっすぐなので迷う心配もなさそうだ。
■左:義林池 ■右:松の並木道
案内板によると池の周囲は1.8キロあるらしい。三韓時代に作られた池で、忠清道地方を「湖西」と呼ぶのはこの池の西側に位置するからだという。ただし、全羅道地方を湖南と呼ぶのはこの池の南にあるからではない。
遊歩道のはじまりには松の木が生い茂り、景色もなかなかよい。堤川十景だけのことはあるかもな。ただ残念ながら遊歩道が雪解けのためがぬかるんでおり歩きにくかったのが難点だった。雪が積もってないだけましか。
ゆっくりと歩いてみたが、どうあがいてもここでは30分過ごすのが限度。ぼちぼち駅に引き返すことにした。タクシーで徒歩で駅まで行けるかどうかを確認したのはわけがあって、来る途中の道路沿いに統一号の客車を使った飲食店があったのだ。そこで休憩でもしながら店主と鉄道談義を交すというのも悪くはなさそう。
黄砂のせいか、排気ガスのせいか、あるいは道路の土ぼこりのせいか、黄色くかすんだ道をとぼとぼと歩いて20分ほどで目指す店が見えてきた。最近韓国では客車を利用したお店が増えている。韓国語では「汽車カフェ」と呼ばれ、ものめずらしさからか、テレビなどでもよく紹介されている。ただ、店主がかならずしも鉄道好きとも限らないようで、中には脱北者がやってる店もある。
さて、その店に来てみたが人の気配はない。つぶれてしまったのだろうか……。
■左:客車利用のお店 ■右:途中で見つけた日本家屋
しかたないのでそのままさらに歩き続けると市の中心部に出る。これまでの経験から、地方都市ではメインストリートの1本となりの道が繁華街になっているケースが多い。堤川もその例に漏れず、少し細い裏道のほうが栄えていた。繁華街を過ぎてさらに進むと駅になる。ちょうど昼時なので食事でもしたいところだが、繁華街を過ぎて駅前までくると飲食店もあまりない。食堂があったので入ってみると、昼時だというのに準備中だと言われ追い出されてしまった。しかたなく中華料理屋でチャジャンミョンの大盛りを頼む。
テレビでは盧武鉉大統領の弾劾訴追案が可決されたと緊急速報が流れている。この国はどうなっているかさっぱりわからん。
腹もふくれたところで、食後のコーヒーと行きたいところだが、駅前にはコーヒーショップなどなさそうなので繁華街まで行くことにする。しかし、ドトールとかスタバのような店はなく、しかたなくロッテリアに入った。雑誌など読みつつ時間を過ごしたのち駅に戻る。さっきから気になっていたのだが、この街の横断歩道はことごとくかすれて消えている。公民館とか図書館とか立派な建物が多いから財政的に苦しいわけでもあるまい。まともな横断歩道はひとつもなかった。どうにかならんものでしょうか。
■堤川の繁華街
さて駅についたのでチケットを購入する。乗車するのは堤川から鳥致院までの統一号。この列車は座席指定なのであらかじめ窓側の席を予約してある。1日10便しかない列車のうち、統一号は3便だけ。13時50分に発車し、鳥致院には2時間後の15時53分に到着する。さっそく乗り込んでみると乗車率はやはり8割程度。意外に高い乗車率に驚いた。
実は車窓風景をあまり覚えていない。それもそのはずで、道中はほとんど寝ていた。満腹になった心地よさと列車の揺れの相乗効果で発車して5分もしないで眠りこけ、気が付いたら鳥致院到着直前だったというありさま。せっかく最後の思い出として乗っているのにまったく意味なし。
■左:寝てる間に終点……。 ■右:かっこいい鳥致院駅
さて鳥致院。ここはソウルと釜山を結ぶ京釜線の天安と大田の中間にある。すなわち、ソウルに戻りたければとっととムグンファ号にでも乗って帰ればいい。統一号に乗るのが目的とはいえ、ここからソウルに行く統一号はない。だからといって引き下がっていては意味がなくて、オレもそのあたりはしっかり確認してある。天安まで行けば、長項線の統一号に乗ることができるのだ。
かくしてオレは、16時14分発のムグンファ号で天安に向かう。天安までは1駅、20分間のみちのり。列車は満席でデッキまで人があふれているが、オレは指定席券を持っているので関係なし。
眠りたくなるのを必死でこらえ天安に到着。10年ぐらい前に一度来たことがあるのだが、駅には往時の面影はまったくない。40分ほど時間があるので駅周辺を歩いてみるが特に見るものもなく駅に戻ってきた。
目当ての列車は長項線乗り場から乗ることになるのだが、なぜか京釜線とは50メートルほど離れたところに専用の乗り場が設けられている。窓口と改札も専用のもの。待合室のテレビで盧武鉉弾劾のニュースが流れているので眺めていたら改札が始まった。
■左:天安駅 ■右:サボ。矢印の向きが逆です。
17時12分発の統一号はソウルまで実に2時間かけて走るおそるべき鈍行列車である。ムグンファ号なら1時間で走るわけで、たっぷり2倍の時間をかけてくれる実に味わい深い列車なのだ。しかも数少ないソウルまで顔を出す統一号なわけで、今回のルートではこの列車がいちばんの楽しみでもあった。
列車は途中の西井里駅でセマウル号1本とムグンファ号3本の通過待ち、別の駅でもムグンファ号3本待ちというとんでもないダイヤが組んである。過密路線の京釜線を鈍行列車が走るというのは大変なのだ。
水原の手前の餅店から地下鉄1号線が並走する(厳密には国鉄なんだけど)。水原を過ぎると高層アパートなども増えてきて、一気に都会の雰囲気が増す。都会の雰囲気の中を鈍行列車に揺られる、というのが非日常的な感じでなかなかよろしい。列車は19時17分にソウルに到着した。統一号三昧のちょっとぜいたくな旅(金銭的にはぜんぜんぜいたくではないが)はこれにて終了〜!
主な出費 清涼里→堤川(統一号) 3,800ウォン堤川駅→義林池(タクシー) 3,800ウォン昼食など 4,500ウォン堤川→鳥致院(統一号) 3,300ウォン鳥致院→天安(ムグンファ号) 5,400ウォン天安→ソウル(統一号) 2,700ウォン合計 23,500ウォン