蔚山編 (2004.6.4.)
誰だ! 「あの企画もう終わったの?」とか言うやつは!
まぁあれだ、2カ月もほったらかしにしておいたので、やってる本人も忘れていたくらいだ。つーかね、短期間に海外に2回も行ってしまうと財政逼迫で国内旅行する余裕がなくなっちまうわけでして。などと前置きをしつつ。
国鉄全線完乗まであと少しのところまでこぎ着けてはいるのだけど、中途半端な区間が残っているので、これをどのようにやっつけるかが悩みどころなのである。中央線で一気に釜山まで下れれば、栄州〜永川、慶州〜釜山の区間に乗車できるのだけど、中央線には直通の列車がない。唯一夜行列車が直通しているのだけど寝台車があるわけでもなく、まして途中下車もしないで乗ってしまっても面白くない。なので未乗区間の沿線から1カ所をチョイスして日帰り旅行してみることにした。
今回の行き先は蔚山。京釜線から東大邱、慶州を経由して蔚山まで行き、帰りは釜山まで出てからソウルに戻るというコース。
ところで高速鉄道が開業したおかげでソウルから地方に行くのが便利になったとか言われているけれど、蔚山に関してはさほどのメリットがない。
たとえば、ソウル発7時40分のセマウル号に乗ると蔚山には13時13分に到着する。高速鉄道を使った場合、ほぼ同時刻の8時発に乗って9時44分到着の東大邱で乗り換えようと思うと、蔚山行きは9時30分発のため乗れず、次の蔚山行きは11時23分となる。ところがこの列車はソウル発7時40分発のセマウル号なのだ。では東大邱での乗り継ぎ時間を短縮しようと思うと、ソウルを9時30分に出ても間に合う。単純に所要時間だけを考えれば2時間近い短縮なのだろうけど、早く出発するか遅く出発するかの違いだけで到着時刻が同じではあまり意味もない。ならば東大邱発9時30分のに乗るにはどうすればいいかというと、ソウル発7時15分の高速鉄道に乗らなくてはいけない。早く目的地に到着したければ直通のセマウルよりも早い列車に乗れということだ。
それはそれでいいんだろうけど、東大邱で乗り継ぐということは、ソウル―東大邱の高速鉄道と東大邱―蔚山のセマウルの料金はそれぞれ払わなくてはならず、ものすごく割高になってしまうという欠点がある。
とまぁゴチャゴチャとうるさいことを言ってるのだけど、結論として、オレはソウル発のセマウルで蔚山に向かった。高速鉄道経由で行った場合との差額を考えて、特室を奮発した。どうだ。
朝6時半に起きて身支度。仕事の都合で午前3時就寝、午前9時半起床という生活をしている身には中途半端な時間に起きることになる。でも列車は5時間半もかかるので充分に睡眠時間は確保できるであろう。つーかせっかく乗るんだから車窓風景でもしっかり眺めろよ、オレ。
7時過ぎにソウル駅に到着し、マクドナルドで朝食。昼過ぎまで食事ができそうにないので朝食を抜くわけにはいかない。
改札が始まりホームに降りる。列車は蔚山行きと浦項行きの列車が併結されており、前8両が蔚山行き、後8両が浦項行きとなっている。特室の乗車率は半分もなかった。隣の席もあいていたのでゆったりとくつろげる。とりあえずは睡眠態勢に入ろうか。
ドリンクサービスのワゴンとか車内販売とか警備員とかが通路を行ったり来たりするのが落ち着かないが、2時間ほどぐっすり眠り起床。あとはサービスのドリンクを飲みながら持参の雑誌を読んだりしながら時間を潰す。
東大邱から大邱線に入るとのどかな風景が広がる。車窓風景を楽しんでいると慶州に到着。ここで列車切り離しのため8分間の停車。そして出発すると13時13分に蔚山到着。長旅であった。
■左:駅名標 ■右:蔚山駅
さて、蔚山というのは韓国きっての工業都市である。現代自動車の工場に現代重工業の造船所、SK、LG化学の石油コンビナート、サムスンSDIのディスプレー工場など、韓国の産業を代表するメーカーが軒を連ねる。そのせいか、駅を降りると潮の香りとともに工業都市っぽいにおいが鼻を突く。そんな蔚山で観光するところなんてあるのかいな。各メーカーは事前に予約しておけば見学も可能なのだけど、造船にしろディスプレーにしろ、日本人が見学に行って「ウリナラは日本を追い抜き造船世界一ニダ」「ディスプレーも世界一ニダ」とかくだらん自慢話を聞かされてもムカツクだけなので、そういう方向には行かないことにする。
実は今回の目的はただひとつ。名物料理を食べることである。蔚山の名物とはズバリ、「クジラ」だ。捕鯨禁止条約が結ばれるまで蔚山は韓国有数の捕鯨基地で、今でもクジラ料理を食べさせる店がたくさんある。クジラなんてガキのころ給食でクジラの竜田揚げを食わされた記憶があるが、冷めてるうえにかたいので、「クジラ=まずい」という印象しか残っていない。それではクジラにとって不当な評価なので25年ぶりにクジラを食べて再評価してやろうというわけ。「クジラを食べる」というと顔をしかめる手合いもいるようだが、オレの中では食べ物に好き嫌いはあってもタブーはない。人肉以外だったら何を食べてもいいのだ。
その捕鯨基地となったのは駅から少し離れた長生浦というところ。ここにクジラ料理店が密集しているという。とりあえず駅前の観光案内所で聞き込み。
「すんません、クジラ料理を食べたいのですが、いいところを教えて下さい」「市内でですか?」「いえ、長生浦です」というやり取りののち、メモを渡され「この店がいいですよ」を教えてもらう。観光案内所がウマイ店を案内する基準というのはどこにあるのだろう? 全州でもビビンバのウマイ店を聞いたら1軒教えてもらったが、いずれもいくつかの選択肢を出して「ここから選べ」というのではなく、「この店です」と1軒しか提示しない。店からなんかもらってるんだろうか?
ところでクジラ料理に疑問がわいているので質問をぶつけてみる。「1人で来たんですけど、クジラ料理は1人でも食べられるものでしょうか?」。大皿料理なんか出てきた日にゃ泣きをみること間違いなし。あるいはナベ料理だったりすると、ハナから1人前での注文は受け付けてくれない。わざわざ店を訪ねていって1人前はダメだったりしたら目も当てられない。で、その回答である。「クジラは部位ごとにいろいろな料理法があるので1人でも大丈夫ですよ」。それで安心した。店まではタクシー利用が便利らしく、「このメモを運転手に見せれば問題はありません」とのこと。いざ出発である。
ところが駅前のタクシー乗り場が行列していて、タクシーに乗るまで30分くらい待たされた。ついでに運転手がこのメモの店を知らない。長生浦まで来たものの店を発見できずにうろうろ。メモに書かれた番号に電話して「洞事務所の横」という案内を受けて車をUターン。しばらく走って「ここが洞事務所だろ、そんな店ないじゃん」という運転手。指さす先には「長生浦派出所」の文字。お前は洞事務所と派出所の区別ができないのか。さらに進んで道行く人に「洞事務所ってどこよ」と案内を受ける運転手。お前は市内の地理をイチから勉強し直せ。
■左:長生浦の風景 ■右:クジラ専門店
どうにか店にたどりつくと店主のおばちゃんが出てくる。「さっき電話くれた人かしら?まぁ上がりなさい」と招かれる。まずは質問。「えっと、1人で来たんですが、1人で食べられるメニューってあります?」「それなら蒸し肉がいいわね」。蒸し肉というのはその名の通りだが、5種類くらいの部位を盛り合わせてあって、それを塩とかタレにつけて食べるもの。「1人で食べるには多くないですか?」「少し多いけど大丈夫。若い人なら食べられるわよ」。たとえば大皿で出てきた場合、食べてみたけどいまいちおいしくない、というときには大量の料理を前に地獄の責め苦が続くことにもなりかねないわけだが。えーい、ままよ。うまくてもまずくても食ったるわい。
店主は日本人が1人でここに来たことに関心を持ったらしい。「これだけたくさん店があるのにどうしてウチを選んだの?」「いえ、観光案内所で紹介されまして……」「へぇ、そうなんだ。ワールドカップのころはここもたまに日本人が来てたわよ。日本のガイドブックにも出てるらしいね。こないだはNHKが取材に来たわよ」とのこと。ちなみに蔚山はワールドカップ開催都市のひとつである。
ビールを飲みながら待つことしばし。蒸し肉が出てきた。説明によると肉と皮や内臓などで、数えてみると6種類ぐらいの盛り合わせとなっている。さっそくつまんでタレにつけて食べてみる。最初につかんだのが内臓だったせいで、ちょっとイマイチな印象。別の肉も食べてみる。独特のにおいがあるが、まぁそこそこのお味。ちなみに、この盛り合わせは4万ウォンなりという高価なたべものなのですよ。ただ4万ウォンの満足感が得られたかというと疑問だなぁ。とりあえず平らげたが、別のものも食べてみたい。刺身とかユッケとかもあるのだけど、これも3万〜4万ウォンと高い。なので7000ウォンのメウンタンを頼んだ。メウンタンというのは赤くて辛いスープ。結局韓国料理というのはなんでもかんでも赤くて辛くなってしまうので素材の持ち味があまり活かされないという欠点がある。まぁ素材の味は充分楽しんだのでいいんですが。
メウンタンも平らげてお勘定。ビールも込みで5万ウォンぽっきり。つーか、1人で食べる食事としてこんな高価なのは初めてだ。
■左:蒸し肉盛り合わせ ■右:クジラメウンタン
店主に「捕鯨に関連した資料館なんかないですか?」と尋ねると、海洋公園なるところで現在建設中だという。ならばその海洋公園にはなにがあるかというと、特になにもないらしい。「この辺に見どころはないんですか?」「ないねぇ。ほかの地区にいかないと……」。長生浦はほんとにクジラ料理店くらいしかないらしいので市内中心部に向かうことにし、タクシーでロッテホテルまで行く。別にホテルに用はないのだが、来たついでに用でも足しておくかと。
■ロッテホテルにはなぜかタイ風ガーデンが……。
いちおうロッテホテルのあるあたりが繁華街の様子。ロッテデパートと映画館、現代百貨店などが集まっている。映画館のロッテシネマにはなぜか大きな観覧車があって、この街のランドマークになっている。ついでだから乗ってみるか。
ビルの屋上に上がってみると、子ども向けの遊園地になっていて、その目玉が観覧車。子ども向けだけあって、平日の昼間にここを訪れているのはママに手を引かれた子どもばかり。1人で観覧車に乗りに来る男などいるわけもない。チケット売り場で2500ウォンなりを支払い搭乗口へ。ひまそうなバイトが1人。ほんとにヒマなんだろう。観覧車に乗ってる人はだれもいない。
観覧車の直径は75メートルで、ビルの高さもあるので最高地点は120メートルに達する。蔚山市内には高層ビルがほとんどないので見晴らしはいいのだが、隣のロッテホテルがほぼ同じ高さなのでそちらの方向だけは視界がさえぎられるのが難点かも。1周15分の観覧車を降りて周辺をうろつくがそれほど面白くもなく、観光案内所でもらったガイドブックを見ながら別の繁華街に向かうことにする。ちなみに案内所にあったガイドブックは60ページに及ぶなかなか本格的なもので、4つ折りくらいのショボいパンフレットしかない自治体が多い中で、蔚山市の力の入れ具合がにじみ出ている。産業都市なので税収も多く、観光パンフレットにも金をかけられるのだろうか。
■左:観覧車 ■右:観覧車から市内を眺める
目指すのは市内を流れる太和江の対岸に広がる城南洞なるところ。若者向けの街でソウルの明洞に似た雰囲気だという。すでに若者ではないオレが行くべきところかは判断の分かれるところではあるが、中途半端に時間が余っているのでとりあえずタクシーで向かう。
蔚山はクジラの街なので、道中ではバス停の屋根にクジラのモニュメントが飾られているのを見つけた。よくよく観察すると、城南洞でも路上にクジラの絵が描いてあったりするのが目に付く。
タクシーを降りてあたりを歩くとアーケード街があった。特になにがあるというわけでもない。路上にはクジラのタイル絵が埋め込まれているのだが、どう見てもイルカにしか見えない。そういえば韓国のクジラ料理を食べさせる店ではクジラと言いながら普通にイルカの肉が出てくるので注意が必要。
■左:アーケードの商店街 ■右:アーケードのない通り
別の通りでもブロックでクジラの絵が描かれているのを見つけた。しかし市内でクジラ料理店は見かけなかったのはなぜだろうか。ついでに、案内所でもらったパンフレットにはクジラ料理に関する記述が一切なかった。ガイドブックには少しだけ記述があったけど、世界的に捕鯨が禁止されているせいなのか、あまりおおっぴらには紹介できないのだろうか? ちなみに「クジラは頭がいい動物だから殺しちゃダメだ」なんて言ってるヤツラはただの偽善者で自分でものを考えられないバカなので、オレは捕鯨反対なんてこれっぽっちも思わないのだが。
■左:イルカ? ■右:ジンベイザメ?
そろそろ帰りの列車の時間が近づいたので、城南洞から歩いて太和江を渡り、タクシーに乗り駅へ。ここから釜山に向けムグンファ号に乗る。高速鉄道開業により多くの列車が釜山の手前の釜田までの運行になっており、今回乗る列車も釜田止まり。釜田までは1時間半の道のり。今回のルートは釜田から釜山駅を経由して高速鉄道でソウルにもどるというもの。釜田へのムグンファ号はそこそこの乗車率。通路側の席なので車窓風景は見られず。中央線は釜山方面に乗るときは海雲台付近で海が見えるので進行方向左側がベスト。しかし今回は右側の列なのでまったく面白くない。持参の雑誌を読みふけっていたら18時59分に釜田到着。
駅を出てまっすぐ行くと地下鉄釜田駅。ここから釜山駅までは地下鉄で16分。いちおう余裕を持って1時間の移動時間を設定してあって、釜山発20時ちょうどの高速鉄道を予約してある。
なんだかんだで釜山にはよく来るものの、ほとんどが乗り継ぎのためで、今回も乗り継ぎ以外の用はない。チケットを購入しコンビニを冷やかせばすぐに改札の時間。高速鉄道については何度も書いているので今回はあえて何も書かない。単純な移動手段として考えればすぐれているが、それだけのシロモノ。もはや何の期待もしていない。22時40分ソウル到着のはずが7分延着したのはここだけの秘密にしておこう。
ところで、蔚山から乗ったムグンファ号の5分前に、蔚山発ソウル行きのセマウル号が出発している。しかしこの列車、ソウル到着が22時59分で、釜山経由で高速鉄道に乗るよりも遅いのである。ちなみに、ソウル―蔚山の移動では飛行機がいちばん便利かも。乗り継ぎ不要、1時間で到着の上、蔚山空港も市中心部近くに位置しているので、列車を使うのはあまり便利ではない。そんなこと言ってたらこの企画自体成り立たないけどさ。
主な出費 ソウル→蔚山(セマウル特室) 39,800ウォン蔚山市内移動(タクシー) 10,000ウォン食費 50,000ウォン蔚山→釜田(ムグンファ号) 3,200ウォン釜山→ソウル(高速鉄道) 40,700ウォン合計 143,700ウォン